格差が広がる不平等な世界をしっかり見つめるべき

ウォール街に抗議するデモが世界的な広がりをせているが、その背景には格差拡大の根深い問題がある。この問題の深刻性を日本も世界もしっかりと認識し、格差拡大の改善を早急に講じる必要がある。

イメージ撮影●村越将浩 人物撮影●永井 浩

"富の偏在" "職の偏在"が拡大してきていることで抗議デモが飛び火…

 昨今、格差や不平等に関する議論が世界中で熱心になされ、格差是正を求める米国ニューヨーク・ウォール街発の抗議デモが世界各地に飛び火するといった事態になっていますが、"富の偏在"あるいは"職の偏在"は最近、特に拡大してきていると私は感じています。

 ニューヨークのマンハッタンにある公園や地下鉄駅構内で数百人、あるいは1000人以上の学生・労働者が集合し、ウォール街に向かってデモ行進を繰り広げる様子も連日報道されています。また、こうしたデモや抗議集会はニューヨークだけではなく、カリフォルニア州ロサンゼルス、ミズーリ州、オレゴン州、そして英国ロンドンでも続けられています。マンハッタンでは、デモの発祥地であるウォール街近くのズコッティ公園から若者たちが警察によって退去させられるなど小競り合いも起きているようですが、抗議の渦が下火になるにはまだまだ時間がかかるのではないかと思います。今や格差拡大は、世界的な問題になってきていると認識すべきでしょう。

 たとえば米国の状況を見ますと、2011年10月24日付の『日本経済新聞』朝刊記事でコロンビア大学のスティグリッツ教授(2001年のノーベル経済学賞受賞者)も格差拡大の推移と原因に関して指摘されています。グローバル化に伴う労働需要減少や労働組合の弱体化、従業員のリストラなどがもととなり、行きすぎた格差拡大が今、米国社会を至るところでゆがめ、社会基盤の不安定化をもたらしているという趣旨です。

 このような所得格差の拡大がなぜ起きたのかについて具体的に見ていくなら、次の4点が特に重要ではないかと私は認識しています。

 第1に「グローバリゼーション」の進展が雇用の動向に及ぼす悪影響、すなわちこの連載でも指摘してきた通り、現在の日本でもさらに進行している産業の空洞化が挙げられます。つまり、グローバリゼーションが進展する中で雇用の機会は奪われ、近代経済学にある「生産要素価格均等化法則」(=自由貿易が貫徹されていれば生産要素価格は均等化されるという法則)に沿う形で賃金というのは低いほうにサヤ寄せされて減少していくことになるのです。

IT技術の進歩や労働に関する規制や制度の改革・改正も所得格差に

 第2にIT(情報通信)による技術の進歩が、ITの技術にたけた労働者にとっては有利に働いてきたものの、ITの技術にたけていない労働者との所得格差が拡大することになったということ。

 第3に労働に関する規制や制度の改革・改正で雇用の機会は増えたものの、低賃金労働者の流入で賃金格差が一段と広がりつつあるということです。特に日本などは規制改革や制度改正を実施しアルバイトや派遣社員、契約社員等の「非正規雇用」を大幅に増やしてきましたが、いわゆる「同一労働同一賃金」というような形ではないため、格差が広がっていった部分もあるのではないかと私は考えています。

 最後の第4は、労働による賃金意外の所得、つまり"資本所得"でも格差拡大が進展しているということです。昨今のような波乱のマーケット状況下では必ずしもそのように言いえない側面もあるとは思いますが、世界的には持てる者がますますお金持ちになっていくという傾向ができており、社会を硬直化させているという事実もまたあるでしょう。

 このように格差が広がる不平等な世界において、「われわれは99%」(1%の富裕層を批判する反格差デモのスローガン)というプラカードを掲げた抗議デモがウォール街で起こり、世界各地に飛び火するといった事態になっているわけです。「われわれは99%」というプラカードを持っている人々の言い分を聞いていますと、「自分たちはフェアに扱われてない!」「自分たちは一生懸命に働こうと思っているのに働く機会を与えてくれない!」というように「フェアではない」ということを問題視する人が非常に増えていることを感じざるをえません。

日本を含む世界各国が格差拡大問題の深刻性をしっかり認識すべき

 そして、「われわれは99%」と称する人々は、所得を再配分する最も直接的な手段である租税と社会保障給付といったものがうまく機能していないのではないかと指摘し、所得再分配機能も見直すべきであるという主張も展開しているわけです。格差問題というのは今後、ますます巨大化して、世界中を覆い尽くす大問題にもなりうるものですから、日本も含め世界各国はさらなる格差拡大の進行を食い止めるべく、まずは当該問題の深刻性をしっかりと認識すべきではないかと私は思っています。

201202_資本主義の未来を見据えて経済脳を磨きなさい! 北尾吉考
(画像=ネットマネー)

北尾吉孝 きたお・よしたか●1951年、兵庫県生まれ。 74年、慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。 78年、英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。野村證券で事業法人三部長等を経たのち、95年にソフトバンク入社、常務取締役。99年、ソフトバンク・ファイナンス社長。 現在、インターネット総合金融グループを形成するSBIホールディングスの代表取締役執行役員CEO。 『何のために働くのか』(致知出版社)など著書多数。 「SBIマネーワールド」にてブログを執筆中。