米国の住宅市場の腰折れ、中国をはじめとする新興諸国のインフレ懸念、欧州のソブリンリスクの表面化などマネーの過剰流動性は今後も高水準で推移しそうだ。

イメージ撮影●村越将浩 人物撮影●永井 浩

大きく3つの観点から再び世界経済の暗雲を直感的に捉え始めた…

再び世界経済に暗雲が立ち込め始めたのではないかと私は直感的に捉えています。特に次の3つのことを大変憂慮しています。

第1に挙げられるのはやはり米国であって、住宅価格や雇用に底割れの兆しが出始めており、もし住宅市場が底割れしてくれば、せっかく今まで静かに収まっていたサブプライムローン絡みの不良債権問題が再び大きくクローズアップされるような状況になってくるでしょう。オバマ政権はこれ以上財政赤字を拡大し続けることができないようなギリギリのところにきていますし、金利についても下げるところまで下げたという状況ですから、次に打つ手が見いだせない中で米国経済が底割れする可能性が出てき始めたのではないかと私は危惧しています。

第2に挙げられるのは、中国をはじめとしたエマージング諸国の現況です。これらの国はリーマン・ショック以後、旺盛な財政政策によって内需拡大を図り、これまで世界経済を牽引してきた わけですが、少し疲れが出始めてきたのではないかと感じています。

すなわち、インフレという病に侵され始めてきており、中国の場合は特に不動産を中心としたバブルというようなことが盛んに言われているわけです。中国は為替をコントロールしてきた結果、インフレに対処しなければならないというような非常に難しい状況を自ら招いてきたわけです。あらゆるコモディティ(商品)価格が上がり始めており、いわゆる賃金の上昇も加わる中でインフレという病に本格的に取りつかれ始めてきていると思います。

それに対抗すべく中国はこれまでも金融引き締めという薬を処方してきましたが、それだけでは不十分なうえ、米国などからの外圧もあることから、今度は為替管理を徐々に緩めてきており、それゆえ人民元が少し高くなり始めてきているといった状況です。中国の現況は重病段階にまで進んだというものではありませんが、何か少し成長に陰りが見え始めてきているというように私はみています。

そして第3に挙げられるのが、「欧州ソブリン危機」が再度表面化し始めてきていることです。もともと、「ギリシャ問題」が片づいたというようには捉えていませんでしたが、私が予想していたよりも早い段階で再燃し始めたという印象を持っています。端的に言えば、ギリシャはもう持たないと思われますので、ユーロ圏から離脱するか、あるいはユーロ圏各国が大幅な譲歩をしていかねばならない段階であると私は考えています。そのような譲歩をする場合、たとえばユーロ加盟国の中で最も負担を被ることになるドイツの選挙民が現政権に対して〝NO〞を突き付ける可能性もあるわけで、今後のユーロ圏の運営は困難を極める局面もあるのではないかとみています。

連載第10回 資本主義の危機に備えて「経済脳」を磨きなさい!過剰流動性が株式市場に 資金を向かいやすくする。
(画像=ネットマネー)
連載第10回 資本主義の危機に備えて「経済脳」を磨きなさい!過剰流動性が株式市場に 資金を向かいやすくする。
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連載第10回 資本主義の危機に備えて「経済脳」を磨きなさい!過剰流動性が株式市場に 資金を向かいやすくする。
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短期的・中期的に各国が緩和的な金融環境を変更する可能性は薄い

このような米国、中国、欧州の現況に加えて、年初のチュニジアを発端としたMENA(中東と北アフリカ)地域における民主化の動き、そして日本における原子力発電の放射能汚染問題がもたらすさまざまな混乱などにより、先進諸国もエマージング諸国も、その金融経済情勢には不透明感が強く漂っています。

そのような中では短期的・中期的に見れば各国における緩和的な金融環境がドラスチックに変貌する可能性は高くはないと思われ、現存する世界的なマネーの過剰流動性は今後も高水準で推移するものと考えられます。

FRB(米連邦準備制度理事会)の信用供与は6月29日時点でリーマ・ンショック直前の約3・1倍に拡大しており、「ワールドダラー」(ドルのベースマネーと海外中央銀行の米国債保有額の合計)は、昨年11月以降で8000億ドルも膨らみ、現在は約5兆3000億ドルと過去最高の水準に達しています。

したがって、世界における趨勢から言えば、遅かれ早かれ主要各国の長期金利は上昇していくでしょうし、世界的にインフレ傾向が増勢してくるというように私はみています。

これまでの状況というのは、リーマン・ショック以後に発生した過剰流動性資金がコモディティ市場に流入し、金をはじめとするさまざまなコモディティ価格を高騰させてきたというものです。しかしながら、コモディティ価格についても行き着くところまで行けば上昇していくことはありませんし、仮にインフレが進行していくならば、ある面では株価にとってはよいともいえます。

米国は過去にも過剰流動性相場の素地をつくり上げたことがある

6000億ドルの枠でFRBが国債購入を行なうというQE2(量的緩和第2弾)を6月末まで7週間も残して使い切ってしまった5月第1週以降、米国がその副作用を覚悟したうえでQE3に踏み切るのかどうかが世界の投資家の関心の的になってきました。今後の株価の行方を左右する最大の要因と言ってもいいでしょう。

1960年代において米国は、ベトナム戦争を拡大させ膨大な量のドルをばらまくことで1970年代の世界的な過剰流動性相場の素地を作り上げたわけです。

過剰流動性と株価という観点から考えるならば、今後の世界景気のよしあしなどももちろん考慮しなければなりませんが、世界的に見て株式市場に資金が向かいやすい状況になっていく可能性は非常に高いのではないかと私はみています。

連載第10回 資本主義の危機に備えて「経済脳」を磨きなさい!過剰流動性が株式市場に 資金を向かいやすくする。
(画像=ネットマネー)

北尾吉孝 P R O F I L E  O F  Y O S H I T A K A  K I T A O

きたお・よしたか●1951年、兵庫県生まれ。74年、慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。78年、英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。野村證券で事業法人三部長等を経たのち、95 年にソフトバンク入社、常務取締役。99年、ソフトバンク・ファイナンス社長。 現在、インターネット総合金融グループを形成するSBIホールディングスの代表取締役執行役員CEO。『何のために働くのか』(致知出版社)など著書多数。「SBIマネーワールド」にてブログを執筆中。