危機的状況にある世界経済国際通貨システムの変革を議論すべく、かつて米国のブレトンウッズで行なわれたような会議を開催しなければならないタイミングが再来するのではないかと思っている。

イメージ撮影●村越将浩 人物撮影●永井 浩

現実味を帯びてきた長期にわたる電力不足が産業空洞化に飛び火する

先進国で大震災が起こった場合、通常9カ月ほどで復興需要が発生してきて、その年のGDP(国内総生産)自体はそれほど下落しないものですが、今年3月の東日本大震災については原発事故も発生したということで、きわめて異なる状況になっています。

今回の原発事故による放射能の影響は福島原発から半径20キロ圏内、30キロ圏内、ひょっとしたら50キロ圏内にまで及ぶかもしれず、当該範囲における農業・牧畜業・漁業は長きにわたって壊滅的な状況が当面続いていくことになるかもしれません。

今回の被災地域のGDPはトータルで日本全体の6〜7%程度であり、GDP比で見れば多大な規模ではありませんが、地域経済の空洞化というのはもはや避けることはできないでしょう。

さらに言うと、原子力発電に対する一種の嫌悪感というものが国民の間に充満してきている中、全国規模での原発停止による長期にわたっての電力不足というものが現実味を帯びてきているわけで、これがまた日本の産業空洞化という大問題に飛び火し、それをさらに進めていく可能性があるのです。

そしてまた、菅内閣(当時)は地震・津波・原子力対策といったことだけにしか取り組んでこず、日本の将来にとって枢要な外交政策というものがまったくもって先送りにされてきたということをいま一度考えるべきでしょう。

復旧・復興はもちろん大事ですが、〝内憂外患〞の状況下で日本の将来にとって大事な仕事はほかにも山ほどあります。たとえば先送りされている重大課題のひとつとして、TPP(環太平洋経済連携協定)の問題が挙げられます。今の調子でいくと日本がTPPへの参加表明を行なうときには、そのフレームワークはすでにすべて決められているということになるでしょう。TPP参加遅滞の結果として起こりうるのは日本の空洞化がいっそう加速化していくということであり、農業の生産性向上を目指す近代化というものがさらに遅れていくということです。

農業・漁業の近代化推進については『農地法』『漁業法』といった戦後すぐに作られたような法律の抜本的改正を一刻も早く行なうべきですし、あるいは今回の原発問題との関連でいえば、『原子力損害の賠償に関する法律』や『電気事業法』というような法律も同じように見直さねばなりません。

世界における日本のポジショニングは悪化の一途をたどることに…

今、世界は次の大転換期に突入していると私は認識しており、日本の将来にとって手かせ足かせとなるような法律はそのすべてを早急に見直し、新しい日本の再生を目指していかねばならないと痛切に感じています。

そして、仮に世界がこの転換期における舵取りをうまく行なうことができなければ、非常に大きな問題をもたらすことにつながるとみており、たとえば日本の為替についても、前述してきたような種々の要因等によって、ひょっとしたら円の価値が暴落する可能性さえあるでしょう。また、そうして円安がどんどん進行したとしても、前述した産業空洞化の影響で輸出が増加していかないという事態にもなりかねないわけです。

そして、当連載の第8回でも指摘したように、高齢化の進行および可処分所得の減少が主因となって日本の貯蓄率は大幅に低下しつつあるわけですが、日本の公的債務残高の対GDP比がすでに先進国中最悪の水準であるにもかかわらず、これまでの日本というのは高い貯蓄率であったがゆえに国債のほぼすべてを国内で消化できたのです。貯蓄率の低下が何を意味しているのかといえば、1476兆円の個人金融資産(2010年度末)と892兆円の長期債務残高(2011年度末)とのバランスが崩れたときには、外国人に日本国債を買ってもらわねばならない状況に陥っていくということであり、そうなれば金利は上昇し、国債価格は暴落するということになるわけです。

また、日本の財政問題が深刻の度を増し、輸出構造が根本的な変貌を遂げてくる中、GDPが着実に伸びていかない状況がずっと続くようであれば、世界における日本の相対的なポジショニングはどんどん悪化しますから、円高が持続していくというようなことはもはやありえません。

他方でヨーロッパの状況を見ますと、「ギリシャ問題」が発覚して以来、これまで緊急融資等で本質的な問題解決を先送りしてきましたが、いずれまた世界的な大問題として何らかの形で必ず表面 化してくることになるでしょう。端的に言えば、ギリシャ、そして「通貨ユーロ」、つまり単一通貨制度を持った経済連合体というべきものは、もはや持たないと私は認識しており、本件がリーマン・ショック後の大きな危機につながるひとつの引き金になりうるのではないかとすら考えています。

米国については、懸案となっていた政府の債務上限の引き上げ法案が可決されたことでデフォルト(債務不履行)は回避されましたが、米国格付け会社によって米国債が格下げされ、いずれにせよ巨額の財政赤字を大幅に削減していかなければ、これまたドルの不信認につながるわけです。

したがって、円、ユーロ、ドルのいずれについても大変厳しい状況にあるわけで、国際通貨システムをどのように変革していくのかを議論すべく、かつてブレトンウッズで行なわれたような会議を開催しなければならないタイミングが、やはりそれほど遠くない将来に再来するのではないかと私は思っています。

連載 第12回 資本主義の危機に備えて「経済脳」を磨きなさい!歴史的転換期における 日本と世界の対応について
(画像=ネットマネー)

北尾吉孝 R O F I L E  O F  Y O S H I T A K A  K I T A O

きたお・よしたか●1951年、兵庫県生まれ。74年、慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。78年、英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。野村證券で事業法人三部長等を経たのち、95 年にソフトバンク入社、常務取締役。99年、ソフトバンク・ファイナンス社長。現在、インターネット総合金融グループを形成するSBIホールディングスの代表取締役執行役員CEO。『何のために働くのか』(致知出版社)など著書多数。「SBIマネーワールド」にてブログを執筆中。