ドルを基軸通貨とする〝パックス・アメリカーナ〞的経済の終焉の序章が始まったと指摘し続けてきたが、世界は今まさに、いわゆる「ブレトンウッズ体制」が崩壊への道をたどっているのだ。

イメージ撮影●村越将浩 人物撮影●永井 浩

連載 第13回 資本主義の危機に備えて「経済脳」を磨きなさい!終焉へと向かい始めた 〝パックス・アメリカーナ〞
(画像=ネットマネー)

米欧の現況を踏まえると世界の資金が向かう通貨はスイスフランと日本円だが…

昨今、世界経済の先行きに対する悲観的見解が多く見受けられますが、事実、世界経済の安定化に向けた各国における財政および金融政策の選択肢は非常に限られてきています。

米国についていえば、前回の連載でも触れましたが、「米債務上限問題」の一件により、米国は格付け開始以来70年間維持してきた最上級の格付けを初めて失うことになりました。

リーマン・ショック以降、ドルを基軸通貨とする〝パックス・アメリカーナ〞の終焉の序章が始まったと、私は本連載で何度も指摘し続けているわけですが、今回の格下げというのはまさにその具体的な一例にすぎず、いわゆる「ブレトンウッズ体制」は崩壊への道をたどっているのです。

その一方で、欧州統合通貨のユーロについても本連載で本質的問題点を指摘し続けてきたわけですが、「統一為替レートを使いながらも財政主権がメンバー国それぞれにある」という根本的矛盾を内包しているため今後も問題を起こし続け、そのたびに一時的な問題先送りを繰り返していくことになるのかもしれません。

現在のような危機的事態に直面しても、ある意味での財政統一化を図るユーロ圏共同債発行に至らなかったのは、結局、各国ベースで政治的決着を得られず財政統一化の実現がなかなか難しいということを物語っているのです。

ユーロ圏の将来も、いまだに見通しがたい状況にあるわけですが、私見を述べるならば、金融・財政・通貨のすべてをユーロ圏で一本化していかなければ〝ユーロ〞というコンセプトは生き残りえないのではないかと思います。

このような米欧の現況を踏まえると、世界の資金が向かう通貨の選択肢はスイスフランと日本円しかないわけですが、それは「ある程度の経済規模と外貨準備高を持っている国であり、流動性が十分ある通貨である」ということに関わっているのです。

ドル基軸通貨体制の崩壊過程において次代のカレンシーが見えなければ、マネーというものは必ず〝金〞に向かうわけですが、それがどの程度のものになるのかはスイスフランや日本円に対してドルがどれだけ下落するのかということと裏腹の関係にあります。金はまだまだ高騰していくのではないかと私はみていますが、その中で次の基軸通貨をめぐる話がどんどん進展していくことになるわけです。そして、それほど遠くない将来に次代の国際通貨システムを議論すべく1944年に米国のブレトンウッズで行なわれたような会議を開催しなければならない局面を迎えるのではないかと思われますが、私は一国の通貨を基軸とする国際通貨体制を今後も敷いていくことはもはや不可能ではないかと考えています。

結局はブレトンウッズ会議でジョン・メイナード・ケインズが提唱した「バンコール」というような人工的世界通貨を創出するか、あるいは世界の主要通貨を加重平均で算出したSDR(特別引出権=加盟国の準備資産を補完する手段としてIMF〈国際通貨基金〉が1969年に創設した国際準備資産)のようなバスケット型世界通貨を創出するという形におそらく落ち着くのではないかと思います。

もちろん、基軸通貨という役割をおのおのが担うのではなく、〝複数カレンシーの世界〞になる可能性も残されているわけですが、仮にそうなった場合、金はやはり重要なものとして認識され続けることになるでしょう。

この21世紀においては、アジアがさまざまな意味で大きな可能性を残す地域ともいえるわけですが、中国についてはインフレ圧力に押されて徐々に〝元〞の弾力化を実施し始めています。

中国としては元というものを国際通貨体制において重要な地位を占めるように持っていきたいわけですが、とりあえず今後想定される前述のSDRのようなバスケット型世界通貨創出にあたって、何としてもそこに食い込みたいと考えていることでしょう。

そうした中で日本円はといえば、政策当局者のきわめてお粗末な為替介入もあってますます強くなる傾向にあるわけですが、日本は財政上大変な赤字であるとはいえ国債の95%が国内で消化されており、それが個人金融資産とある意味でバランスされているという事実がある限りにおいては、当面、円が弱くなることはないでしょう。

しかし、日本の貯蓄率は大幅に低下しつつあり、時間の問題で個人金融資産と長期債務残高のバランスは必ず崩れることになるわけで、そうしたときに日本国債の格付けが大きく引き下げられることになるでしょうから、いつまでも借金を増やし続けるということは不可能なのです。

ただし、私は復興増税には反対しており、復興債のみで財源を賄うべきだと考えています。

もちろん、どこかの時点で財政健全化はできるだけ速やかに図らねばなりませんが、今まさに経済を復興させなければならないときに税を上げるなどというような非常識なことはすべきではありません。

増税論者は往々にして現況を不変として財政再建論を展開し、増税がもたらす経済成長へのマイナス効果を忘れがちです。こうした考え方により大失敗したのが橋本龍太郎政権であって、橋本氏は財政再建の必要性を唱えて増税を実施し、せっかく浮揚しかかっていた当時の日本経済を壊してしまったのです。

今というタイミングにおいて最も重要なのは、今後発生してくる復興需要というものをいかに経済成長に生かしていくのかを考えることであって、やはり多くの国民の購買力低下につながる増税を決して実施すべきではないと私は強く思っています。

連載 第13回 資本主義の危機に備えて「経済脳」を磨きなさい!終焉へと向かい始めた 〝パックス・アメリカーナ〞
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北尾吉孝 P R O F I L E  O F  Y O S H I T A K A  K I T A O きたお・よしたか●1951年、兵庫県生まれ。74年、慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。78年、英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。野村證券で事業法人三部長等を経たのち、95年にソフトバンク入社、常務取締役。99年、ソフトバンク・ファイナンス社長。現在、インターネット総合金融グループを形成するSBIホールディングスの代表取締役執行役員CEO。『何のために働くのか』(致知出版社)など著書多数。「SBIマネーワールド」にてブログを執筆中。