すが、そういう中で一番大事なポイントになるのは、相手国の立場もわきまえながら誠意を持って交渉するということだと思います。「巧こう詐さ(うまく誤魔化すこと)は拙せっ誠せい(へたでも真面目)に如しかず」という韓非子の言葉もありますが、要するに交渉というのは相手もあることですから、誠実さが相手に伝わることが何よりも大事だと思っています。そういう意味でもTPPという多国間交渉において、農業分野という「例外」を要求することは相手に不利を受け入れさせることであり、その代償を与えねばならないわけですし、そもそも国民の経済的利益ということを考える場合、グローバリゼーションという既成事実の中で農業の生き方を摸索していく時代にあって「日本の農業が壊滅する」などという議論は問題外です。

日本の農業就業人口は1960年の1454万人から2012年の251万人(出所:農林水産省)へ実に83%も減少し、GDP(国内総生産)に占める農業の割合は1%にすぎないにもかかわらず、農村地域の既得権益代表者である農水族議員などは国益という言葉を持ち出して、TPPが食料安保を脅かすと騒ぎ立てるという始末です。

また、日本の将来にとって重要な政策課題ではエネルギー政策もそのひとつでありますが、食料は日本が国土を有する限りにおいて日本でも何とかしうる問題といえる一方、エネルギーに関してはそうはいかないという状況もあるわけです。原油の99・6%(2011年度、出所:資源エネルギー庁)を海外からの輸入に依存しているという中で、その供給停止リスクを叫ばずに食料に対し大騒ぎしている族議員はあまりにも滑稽です。

ここぞとばかりに「黒船来襲」と脅威をあおり、妙に脅しかけられたような話ばかり出してきて国民をおかしな方向に揺さぶっていくのはけしからん話であって、族議員の影響力というものは徹底的に排除されねばなりません。

農業分野のみならず、たとえば日本医師会の見解通りにTPP参加によって「国民皆保険は崩壊する」と訴える族議員等もいるわけですが、皆保険をなくすか否かは国民が決めることであり、すべては選挙に反映していくのですから、そうしたことは起こりえないということを私は強く訴えていきたいと思います。

北尾吉孝

連載(改編)第32回 資本主義の未来を見据えて「経済脳」を磨きなさい!
(画像=ネットマネー)

R O F I L E  O F  Y O S H I T A K A  K I T A O

きたお・よしたか●1951年、兵庫県生まれ。74年、慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。78年、英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。野村證券で事業法人三部長等を経たのち、95年にソフトバンク入社、常務取締役。99年、ソフトバンク・ファイナンス社長。現在、インターネット総合金融グループを形成するSBIホールディングスの代表取締役執行役員社長。『何のために働くのか』(致知出版社)など著書多数。「face book」にてブログを執筆中。