世界的情勢から見た今後の為替レートの決定要因

米国の長期金利が上がり、日本は利上げを行なう状況にないことが、円安を押し進めることになる。また、イラン情勢によって原油価格がさらに上昇することも円安要因になるだろう。

イメージ撮影●村越将浩 人物撮影●永井 浩

 ドル・円相場は3月に一時1ドル=84円台まで円安が進行し、11カ月ぶりの円の安値を付けたわけですが、今後の為替レートの行方を左右するうえで最も大きな影響を与えると思われる要因は、いったい何なのでしょうか。

 私は大きく言って3つあると考えています。そのひとつが野田首相が推進している「社会保障と税の一体改革」が国会を通るかどうか。通らなければ円安ファクターになるでしょう。2つ目がイランをめぐる緊張関係がさらに強まるか否か。そして最後のひとつは、米国経済の動向です。米国の雇用や生産・消費の面では回復状況であり、S&Pケース・シラー住宅価格指数は依然として弱く懸念される部分でありますが、たとえば中古住宅販売件数のようにある程度の回復を見せてくるのではないかと期待感を持たせるような指標も出てき始めています。長期金利も上がり始めてきています。

 日本においては日銀もやっと「インフレターゲット論」的な主張をし、まともな金融緩和の方向に動きだし始めました。デフレからの脱却を目指さねばならない状況ですから、金利の日米逆転はなかなか起こりえないであろうと私は捉えています。

 したがって、米国経済がこのまま順調に回復するなら、米国の金利は上がり、その一方で日本は利上げを行なう状況にはありませんから、金利だけで見てもおそらくドルは円に対して今後強くなっていくであろうと考えており、1ドル= 85 円の水準がありうると思っています。

 他方、イランをめぐる緊張関係というのは、報道で見る限りどうやら高まっているのではないかと思われ、その証左としてすでに原油価格は上昇し始めています。仮に1バレル=200ドルを超えていくようなことになれば、日本の原子力発電所の停止に伴う火力発電向けの燃料輸入コストは膨大なものとなるでしょうから、それが経常赤字につながり、いわゆる「双子の赤字(財政赤字と経常赤字)」となっていくわけです。

 そうなってきますと、その国の通貨が強くなるはずがないことは過去の歴史が証明していることですから、経常黒字によって支えられてきた部分もある円は、今後さらに弱くなるだろうと考えています。場合によっては、さらなる大幅な円安進行が今後起こってくる可能性もあるというようにみています。「イラン・イスラエル戦争」が勃発するのか、米国によるイランへの軍事攻撃が行なわれるのかについては、イランの核兵器開発に向けた進捗状況にかかっているわけですが、2月のIAEA(国際原子力機関)の報告書においては、イランのウラン濃縮活動が急激に拡大しているとの認識が示されています。

 もちろん、米国自身も財政問題等を抱えておりティーパーティー(茶会)なども戦争に踏み切るべきではないとさんざん指摘しているのですが、地政学上で非常に重要なホルムズ海峡を場合によってはイランが封鎖できるような状況になれば、全世界におよぼす悪影響は大変なものになりますから、米国やイスラエルといった国々はイランを取り巻く現況をものすごく脅威に感じているわけです。

 最後にイランをめぐる緊張関係の行方を洞察するうえで認識すべき米国の戦略的意思決定におけるひとつの特殊性、すなわち"ロビー"というものの影響力を指摘しておきます。

 第1に挙げられるのは軍需産業のロビーですが、彼らからは多額の資金が政治家に常時渡っていますから、軍需産業によって米国の戦略的な意思決定が振り回される可能性があるわけです。たとえば彼らは今、シリア反政府系に対する兵器供与を実現させようと動いており、そうした形で自らが製造した兵器を自国外で戦争を起こして売却するといったことを盛んに行なってきているということです。また米国では原発産業のロビーも強いわけですが、昨年3月の東日本大震災を経て世界中で原発に対する縮小の動きや全面停止に向けた議論がなされてきており、自身の死活に関わる問題ですから、これまた政策決定者に対する働きかけを強めているというのが現況のようです。

 さらには米国のマスコミ界および経済界、とりわけ金融界を牛耳っているのは、いわば"ジューイッシュ(ユダヤ)"でありますが、ジューイッシュのロビーはイスラエルを守ることに多額の資金を費やして暗躍しており、マスコミ界においてもそうした方向に誘導していく可能性があるが挙げられるでしょう。

 これまでの日本においては東電中心の原発産業が、ある意味強かった日本版のロビーともいえますが、ロビーの在り方自体が日本と米国とでは大きく異なっているという事実をまずは理解すべきです。そして今後の世界情勢を洞察するうえできちっと認識しておくべきは、米国ではそうしたロビーが戦略的な意思決定において大きな役割を演じているということであり、それゆえ戦争というものが思わぬところから引き起こされるかもしれないということです。

201206_資本主義の未来を見据えて経済脳を磨きなさい! 北尾吉考
(画像=ネットマネー)

北尾吉孝 きたお・よしたか●1951年、兵庫県生まれ。 74年、慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。78年、英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。野村證券で事業法人三部長等を経たのち、95年にソフトバンク入社、常務取締役。99年、ソフトバンク・ファイナンス社長。 現在、インターネット総合金融グループを形成するSBIホールディングスの代表取締役執行役員社長。 『何のために働くのか』(致知出版社)など著書多数。 「Face book」にてブログを執筆中。