「原発ゼロ」の状態が続く日本のこれからを思う

唯一稼働していた泊原発3号機を最後に国内全50基の原発が停止したが、日本の経済と国民の生活を考えるなら、今後も国内50基すべてを停止し続けることが賢明であるとは思えない。

イメージ撮影●村越将浩 人物撮影●永井 浩

 去る5月5日、唯一稼働していた北海道電力泊原発3号機を最後に国内全50基の原発が停止しました。

 いまだもって「問題が起こると今回のような惨事になるから、原発はもはや永続的に停止すべきだ」といった形で「原発ゼロ」を主張する人は数多くいますが、全原発を停止し続けるコストというのは非常に大きなものになるでしょう。

 サウジアラビアの元石油鉱物資源相、アハマド・ザキ・ヤマニ氏は1970年代のオイルショック時に、「欧米がアラブの石油を買わなくなるだって?

 そうなったらわれわれは遊牧生活に戻ればいいだけだ」と述べたといわれていますが、果たしてわれわれ日本人は慣れ親しんだ生活を今から変えることができるでしょうか。少し暑さを感じればすぐにエアコンを入れるというような現代の生活になじんでしまった私たちが、それを昔の状態に戻すことは非常に難しいものがあると思うわけです。

 今はまだそれほど暑くはありませんから、一部の国民はヒステリックになり、ひたすら「原発反対!」と大騒ぎしていられるのかもしれません。しかし、仮に今年の夏が1898年の統計開始以来最も高い平均気温となった一昨年の夏並みにでもなってエアコンを自由に使うことができなくなったら、その状況を受け入れて耐えうるだけの忍耐力が原発反対派にあるかといえば、なかなかそうは思えないのです。

 政府は、原発が再稼働せずに猛暑になれば関西、北海道、九州の3電力管内が電力不足に陥るとの予測を示していますが、国民生活に甚大な影響を及ぼす電力不足は何としても避けなければなりません。

 また、経済産業相の諮問機関「総合資源エネルギー調査会」は、2030年に原発の比率がゼロである場合は実質GDP(国内総生産)が最大5%下押しされるという試算結果を公表しましたが、やはり「原発ゼロ」の経済的対価には非常に大きなものがあるわけです。

 過去、オイルショック時に原油価格の高騰が日本の製造業にとって大きな供給制約になったように、電力が日本全体の供給制約になっていくのか、またその結果として製造業の生産能力がどうなっていくのかという問題も考えねばなりません。

 オイルショック時の状況は、製造業の生命線でもある原油価格がある日突然4倍に跳ね上がるといったものでした。これにより「部品があっても製造ができない」「遊休設備があっても増産ができない」といった現象が起こり、結果として生活必需品の買い占めや品不足が起こりました。

 経済の世界において電力の供給制約というのは大変重要な問題であり、それにより何が起こってくるのかといえば、復興需要が十分に出がたくなり、また復興投資を無理に行なおうとすれば別の部分に犠牲が生じてきます。これは国民所得は「投資」「消費」「純輸出」を足したものであるという、いわゆる「国民所得均衡式」で考えるとわかりやすいでしょう。仮に国民所得を一定として「投資」を増やそうとする、すなわち設備投資や住宅投資あるいは崩壊した社会資本等に対する復興投資をどんどんしていくとすれば、「消費」か「純輸出」、あるいはその両方が減ることになります。では、実際に供給制約を受けたオイルショック時に日本がどうしたのかといえば、「総需要抑制政策」を発動してGDPを減らしていくという発想を持ち、さらには金融も引き締め、円高にもすることで何とか均衡を保ったわけです。

 2011年度の国際収支速報によると、原発から火力への発電の代替でLNG(液化天然ガス)などの輸入が増えたという要因もあり、比較可能なデータがある1979年度以来32年ぶりの貿易赤字となったわけですが、今後原発の全停止が長引いていくという状況になれば、①原油やLNGといった代替燃料の価格が上昇する、②相対的に電力コストの安い他国との国際競争力が低下する―といったことが貿易収支のさらなる悪化を招いていくことにもなりかねません。

 そのような状況で、仮に「イラン・イスラエル戦争」が勃発し、米国によるイラン軍事攻撃が運悪く現実のものとなれば、原油価格暴騰ということにもなりかねず、電気料金の値上げを幾度も繰り返さねばならなくなるとか、莫大な国税を費やさねばならなくなるといった状況も生まれてくるかもしれません。「原発ゼロ」を訴える一部の人たちが、そのような事態を想定し、どう処していくのかについて十分に考えたうえで一時的ではなく永続的な原発の停止を求めているのかといえば、そうしたものでは決してないでしょう。思慮を重ねることなく、ただただ「原発反対!」と騒ぐのは今の時点では非常に簡単なことですが、前回の当連載でも述べたように、やはり「原発ゼロ」の日本というものを"長期的、多面的、根本的"に3つの側面によって考えるのであれば、今後も国内50基すべてを停止し続けることが賢明であるというようには、私は考えていません。

201208_資本主義の未来を見据えて経済脳を磨きなさい! 北尾吉考
(画像=ネットマネー)

北尾吉孝 きたお・よしたか●1951年、兵庫県生まれ。 74年、慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。78年、英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。野村證券で事業法人三部長等を経たのち、95年にソフトバンク入社、常務取締役。99年、ソフトバンク・ファイナンス社長。 現在、インターネット総合金融グループを形成するSBIホールディングスの代表取締役執行役員社長。 『何のために働くのか』(致知出版社)など著書多数。 「Face book」にてブログを執筆中。

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