フェイスブックの上場と今後の展開について

日本円にして約1兆2700億円という巨額の資金を手に入れたフェイスブックは、今後の買収戦略を周到に練っているはずだ。ただ、同社のインサイダー騒動は倫理的価値観を疑う行為である。

イメージ撮影●村越将浩 人物撮影●永井 浩

 米国のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)大手、フェイスブックは5月18日、ナスダック市場に上場しました。上場後、同社の株価は大幅に下落し、7月3日時点では公募価格を約18%下回る31・2ドルとなっています。同社株に対する見解は大きく分かれており、投資判断を「買い推奨」とするアナリストもいる一方、長期的な投資妙味ではグーグルやアップルに見劣りするという意見もあります。

 私自身は、今のフェイスブックはグーグルなどと比較してどうこうと議論するような段階ではないというふうに考えており、フェイスブックのスタートというのは正にこれからではないかと思っています。

 今回のIPOによる調達額は約160億ドル(約1兆2700億円)となり、IT関連企業としては過去最大規模となったわけですが、その巨額の調達資金をいかに使っていくのかが今後のフェイスブックを占ううえでの大事なポイントのひとつになってくると私はみています。

 今、フェイスブック経営陣は必死になって調達した資金の使い道を考えているのではないでしょうか。といいますのも、仮に私がフェイスブックのCEOであれば、グーグルやアップルといった将来の仮想敵国を想定しながら、どうすればそれらに勝ちうるのかという戦略を必死になって考えると思うからです。

 調達資金の使途としては、第1に既存事業にサービスを付加するための買収戦略でしょう。フェイスブックは今年に入り、写真共有アプリ開発会社のインスタグラムをはじめとして巨額の企業買収を続けているわけですが、おそらく今回の調達資金の一部はこうした買収に使われるのではないかと考えています。

 第2にフェイスブックの現事業での世界制覇をより確実なものとし、世界最大のマーケットになるであろう中国をいかに攻略していくのかに関わる買収戦略です。中国語を話す人口を握るということは世界の津々浦々に住む華僑・華人を取り込むことにもある意味つながっていきますから、いわゆる「グレーターチャイナ」(香港、台湾はもちろんシンガポール、マレーシア等の中国人も含む)を意識して、どう次の戦略を練っていくのかがまずあると思います。もしそうだとしたら、ナスダック上場企業であり、中国の2大SNSサイトのひとつである「人人網」を運営する人人(Renren)といった企業の買収もありうるのではないかと思ったりもしています。

 仮にそうした企業買収が実現するなら、中国という大きなマーケットですでにグーグルは勢力を失ってしまっていますから、投資しておいたうえで中国で自由に活動できるまで待っていたら将来大きな差別化になるかもしれません。

 そして3つ目の買収ターゲットとして、フェイスブックが圧倒的な人口を世界中で握った後、それを土台としてザッカーバーグCEOがソーシャル・ネットワーキングの次の展開に向けてどのような企業群を買収していくのかが、フェイスブックの将来のすべてを決めることになると思っています。

 世の中は、「次なるソーシャル・ネットワーキングの展開とはいったい何なのか。そして誰が、それをどうクリエートしていくのか」ということを模索し始めています。もちろん、フェイスブックもそのひとつになりうるでしょうし、グーグルやアップルもそのひとつになるのかもしれません。

フェイスブックがIPOした際の騒動の主因をこう考える

 ところで、多数報道されているように今回のIPOをめぐって、事前に業績予想の引き下げを一部投資家にしか開示していなかったとして、株主らは5月23日に同社とモルガン・スタンレーなど引受幹事らを提訴したわけですが、こうしたものはインサイダー情報も甚だしく、モルガン・スタンレーの担当者というのはインベストメントバンカーの風上にも置けないと思っています。

 エクイティ・ファイナンスをめぐるインサイダー情報の問題は日本においてもずっとあり、未発表のファイナンス情報が主幹事証券会社を通じて漏えいし、ヘッジファンドなどがどんどんカラ売りを仕掛けてくるといった問題の違法性を私は以前からさまざまな形で指摘してきました。

 また、今回の件に関わっていたフェイスブックのエバースマンCFOは、私に言わせれば、CFOとして最も大事な倫理的価値観をまったく備えていない人ではないかという感がしていますし、前述したような"不正"を最終的に阻止しえなかったザッカーバーグCEOについても大いに問題があるといえましょう。

 今回、需要が強いとして土壇場で公募価格を上げた裏で業績に関するネガティブ・インフォメーションを持っていたとすれば、エバースマンCFOは多くの投資家を欺く行為を実行したことになるわけですから、即刻、懲戒解雇にすべきと言わざるをえないと私は思っています。

201209_資本主義の未来を見据えて経済脳を磨きなさい! 北尾吉考
(画像=ネットマネー)

北尾吉孝 きたお・よしたか●1951年、兵庫県生まれ。 74年、慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。78年、英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。野村證券で事業法人三部長等を経たのち、95年にソフトバンク入社、常務取締役。99年、ソフトバンク・ファイナンス社長。 現在、インターネット総合金融グループを形成するSBIホールディングスの代表取締役執行役員社長。 『何のために働くのか』(致知出版社)など著書多数。 「face book」にてブログを執筆中。

201302_資本主義の未来を見据えて経済脳を磨きなさい! 北尾吉考
(画像=ネットマネー)

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