成長資金供給に関する日韓の相違点を考える

韓国ではベンチャー企業育成のための公的資金の流れ、サポートするメカニズムが整っているが、日本はまさにその真逆の状況にある…。 このままでは日本経済の将来の見通しは暗いと言わざるをえない。

イメージ撮影●村越将浩 人物撮影●永井 浩

 12月の韓国大統領選挙に向けた動きが本格化しています。「次期大統領は誰になるのか」という話がされ、「あの候補者が勝てば、あそこにグッと資金がつぎ込まれるにちがいない」といった思惑の中、成長にくみするであろう候補者に関連しそうな企業の株価上昇が見られる状況になっています。たとえば私どもの場合、SBI Investment KOREAとSBI Global Investmentという2つのベンチャーキャピタルを韓国KOSDAQに上場していますが、前述したような状況下で両社ともに株価が急騰しました(6~7月の騰落率:前者が+25・3%、後者が+99・3%)

 世界的に沈滞ムードが漂う株式マーケットの中でなぜそうしたことが起こるのかといえば、韓国においてはベンチャー企業育成に向けて年金基金等のさまざまな公的資金がベンチャーキャピタルに流れるシステムが構築されているからです。その一方で、日本ではベンチャー企業をつくり育てるべく国や地方がベンチャーキャピタルに成長資金をつぎ込み、サポートしていくメカニズムがいつまでたってもできません。

 去る7月9日にまとめられた「成長ファイナンス推進会議」の最終報告書を見ますと、たとえば「2. 政策金融・官民連携による資金供給の拡大」として、「(1)公的・準公的セクター資金の有効活用」「(2)政府系金融機関等の活用」「(3)産業革新機構の活用」といった事項が挙げられていますが、いまだかつて有効活用などされたことはなく、東京電力や日本航空など一部企業を救済しただけで、日本における新産業創造にはまったく寄与してこなかったわけです。また、日本ではベンチャー企業に対して銀行を通じて資金を供給すべきという発想がまだあるようですが、それはまったくの間違いです。ベンチャー企業にリスクマネーを提供するなどといったことは、本来的に言えば銀行の本業的な仕事ではありません。

 長い銀行の歴史の中で、かつて長期資金で日本の産業育成を担ったのが日本興業銀行をはじめとする長期信用銀行でしたが、そのような銀行の役割はすでに終わり、そうした銀行は消失しました。日本の銀行は担保で資金を貸すということにしか慣れておらず、基本的にリスクマネーの提供はDCF(ディスカウント・キャッシュフロー)モデルで資金を出せるところがするわけで、それを行なうのがベンチャーキャピタルなのです。なぜ日本では韓国のようなシステムを構築することでベンチャーキャピタルを積極的に活用して、産業の発展に寄与させるようにしないのか、はなはだ疑問です。

 前出の最終報告書においても「休眠預金を成長マネーの供給源として有効活用するための仕組みを構築する」とされていますが、リスクマネーを提供できない組織に資金を拠出してバラまいていくようなことをしても、今後も成長産業は育たないわけです。本物のベンチャーキャピタルにこそ成長資金が回っていくべきではないかと思うのです。

 そもそも成長産業育成の本質というものを日本の政策当局者はまったくわかっていませんから、韓国のように公的資金がベンチャーキャピタルに流れるシステムをいまだに構築しえず、失敗ばかりを繰り返しているわけです。そしてその結果として何が起こったのかといえば、日本の代表的なものがサムスングループを中心とした韓国勢にことごとく奪われ、国としての競争力が著しく低下したということです。半導体しかり、液晶しかり、現在のスマートフォンの分野においても日本が世界から後れを取っていく中で、韓国は自国の経済を引っ張っていくべく新産業育成支援をきちんと行なってきました。新しい分野でちゃんと利益を創出しているわけです。

 日本においてイノベーションの土壌を醸成し産業を興したいというように考えるのであれば、韓国に学び韓国モデルのようにベンチャーキャピタルファンドを積極的に活用していくような方策をとるべきで、日本と韓国を比べるとそうしたところに対する考え方が月とスッポンほど異なっているように私はつくづく感じています。

 前述のSBI Investment KOREAは韓国政府の資金を運用させてもらっていますが、なぜ日本の本体においていまだにそうしたことが実現しえないのか、率直に言って私には理解できません。

 たとえば日本のSBIインベストメントは686社に投資を実行して17・8%イグジットしたという世界的に見ても輝かしい実績がありますが(2012年3月末時点)、この数字はベンチャーキャピタルとして日本のIT産業の発展に多大なる貢献をしてきた証左といえるのではないでしょうか。こうした本物のベンチャーキャピタルに公的資金が回るシステムを日本も早急に具現化すべきで、それこそがまさに成長資金の有効活用というものであり、今後もそれができないようであれば日本経済の将来の見通しは暗いと言わざるをえないと私は心底思っています。

201211_資本主義の未来を見据えて経済脳を磨きなさい! 北尾吉考
(画像=ネットマネー)

北尾吉孝 きたお・よしたか●1951年、兵庫県生まれ。 74年、慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。78年、英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。野村證券で事業法人三部長等を経たのち、95年にソフトバンク入社、常務取締役。99年、ソフトバンク・ファイナンス社長。 現在、インターネット総合金融グループを形成するSBIホールディングスの代表取締役執行役員社長。 『何のために働くのか』(致知出版社)など著書多数。 「face book」にてブログを執筆中。

201302_資本主義の未来を見据えて経済脳を磨きなさい! 北尾吉考
(画像=ネットマネー)

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