参議院選挙に向けた安倍総理、次の一手

絶対に勝たなければならない参議院選挙に向けて安倍総理はさまざまな打ち手を考えているだろうが、総理の狙いを予見するなら、外交だろう。

イメージ撮影●村越将浩 人物撮影●永井 浩

 安倍総理は、夏の参議院選挙において自民・公明両党での過半数を何が何でも獲得すべく、当然ながらさまざまな手を考えるでしょう。いま私がこの参院選に向けて安倍総理が何を狙うかと予見するなら、ここから彼が点数稼ぎのために狙うのは外交であるとみています。

 2月に行なわれた日米首脳会談において、TPP(環太平洋経済連携協定)交渉参加に際して「一方的にすべての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではない」ことを確認し、米国で一応の格好をつけてきた安倍総理は「4月末にはプーチン大統領に会うべく調整している」と自ら述べています。

 かつて麻生副総理は外相時代に、北方四島全体の面積を二等分する「面積等分論」に言及したことがありますが、おそらく安倍総理の訪露の狙いも北方四島のうち、二島の返還でないかと思われ、残りの二島については交渉継続になるとみています。ただ、二島返還という形で「はい、はい」と機嫌をよくしているようなプーチン大統領ではないはずで、その返す刀で向こうが何を言ってくるのかを考えてみると、おそらくシベリアの天然ガスの開発協力とそのガスの購入を迫ってくるのではないかと思います。すなわちシベリアのガス田開発に日本が協力し、その天然ガスを日本が買うという見返りとして、ロシアはとりあえず二島返還に応じ、あとの二島については交渉継続になるのではないかと私はみています。

 そうした条件で安倍総理が納得するか否かはわかりませんが、私であればそこにもうひとつ乗っけようとするでしょう。何を乗っけるのかといえば、極寒の大地シベリアに高濃度放射性廃棄物の処理場を建設するということです。あの3・11以後、争点化された原発政策をめぐる最大の問題点とは、高濃度の放射性廃棄物に対する処理の仕方に関して具体的な結論を得るということです。

 実際問題として日本国内であれば、どの都道府県も拒否反応を示し、なかなか引き取り手がないというのが現況ですが、誰も住んでいない広大なシベリアの地下深くであったならばどうかということです。この提案に対してロシア側も強く反対する理由はないでしょうから、私が安倍氏のような立場であれば、そうして点数稼ぎを狙うことを考えます。

 果たして総理は、そうした外交を展開するのでしょうか。

 またTPPに関していえば、安倍総理がようやく交渉参加を表明したということで、基本的には歓迎すべきこととして私は受け止めています。

 2011年4月に刊行された拙著『日本人の底力 世界は「わが民族の叡智」を求めている』(PHP研究所)では、「TPP加盟は日本のマスト」「政府は交渉上手になれ」「TPP加盟なくしては日本の製造業は滅ぶ」等と題して論じ、また当連載でも早期の交渉参加を訴え続けてきましたから、今回の成果は当たり前といえば当たり前ですが、一応の前進が見られたことは大いに結構なことだと思います。

 これから後、農業の問題をどうしていくかということもあるのかもしれませんが、そもそも一部の官僚・政治家たちが声高らかに言う39%とされる食料自給率というのは、世界で類例を見ないまったくナンセンスなカロリーベースの数字であって、生産額ベースでは66%(2011年度)なわけですから、その作られた数字を前提に日本の食料自給率がどうこうと心配してみても、あまり意味のないことだと思います。

 そしてまた、日本の将来にとって重要な政策課題ということではエネルギー政策もそのひとつでありますが、たとえば日本が食料とエネルギーの自給を迫られる場合を考えますと、食料はある意味、日本でも何とかしうる問題といえる一方で、エネルギーに関してはそうはいかないという状況もあるわけです。

 総じてTPPというのは、農村地域の既得権益代表者である農水族議員らが一部で大騒ぎしているだけのことであって、少なくとも農業分野等との利害関係のない良識人の過半は皆、加盟すべきと考えており、彼らはTPPに加盟しないならば日本は世界の中で取り残され、国益を著しく損なうことになると憂慮しています。国益というのは短期的に見るのか中長期的に見るのかで常に変わってくるものであり、中長期的に見てTPPのような世界的枠組みに参加しないということ自体が国益を損なうことになるのです。もう今は「日本の農業が壊滅する」などと言っているような時代ではなく、グローバリゼーションという既成事実の中で農業の生き方を摸索していく時代であると、TPP反対派はきちっと理解せねばなりません。

 要するに政治というものは畢竟「人を動かし、世を動かすこと」ですが、人も動かせねば世も動かしえない人が政治家になっているがゆえに、TPP問題を前進させるためにこれほど時間を要してしまったわけです。安倍総理には、TPPの加盟に向けて、とにかくどんどん話を進めていっていただきたいと思う次第です。

201306_資本主義の未来を見据えて経済脳を磨きなさい! 北尾吉考
(画像=ネットマネー)

北尾吉孝 きたお・よしたか●1951年、兵庫県生まれ。 74年、慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。78年、英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。野村證券で事業法人三部長等を経たのち、95年にソフトバンク入社、常務取締役。99年、ソフトバンク・ファイナンス社長。 現在、インターネット総合金融グループを形成するSBIホールディングスの代表取締役執行役員社長。 『何のために働くのか』(致知出版社)など著書多数。 「face book」にてブログを執筆中。