アベノミクス「3本の矢」は本来的な競争政策が重要

「3本の矢」の3つ目の矢である成長戦略は新産業育成策と構造政策に分けられると思うが、構造政策の中で規制緩和策と一体化して進めていかねばならないのが競争政策である。

イメージ撮影●村越将浩 人物撮影●永井 浩

 黒田日銀総裁が「異次元の金融緩和」を打ち出した後、想定通り株高・円安が進みました。世界情勢の変化で紆余曲折はあるでしょうが、私は基調として株価は日経平均で1万6000円台から1万8000円くらいまで上がる方向、為替については1ドル=100円を突破して105円程度まで円安進行が起こってくるのではないかと思っています。

 仮に1ドル=105円になったとき、日本経済にいかなる事態が生じてくるかが今の関心事のひとつですが、まずわかりやすい例で見れば、円安になれば海外からの旅行者が増えて国内経済にとってはよい側面が出てくることにもなるでしょう。

 他方、日本のエネルギー自給率は4・8%(2010年データ)ときわめて低く、原発停止という状況下でLNG(液化天然ガス)の輸入価格は上昇し続けており、輸入量も東日本大震災前より増加しています。1ドル=105円になればますます貿易収支の足を引っ張ることになり、エネルギーの対外依存という部分で悪い側面が露呈されることでしょう。

 また、昨年後半までの円高局面の間につくり上げてきたさまざまな事柄、たとえば生産拠点のほとんどすべてを海外に移すとか、海外から安価な部品を仕入れて日本で製造・販売を行なうといったシステムを壊すことなく利益率を落とさずにうまく運んでいけるかを心配しています。

 アベノミクスが始まって以来、とにかく"気"が急激に変わってきており、デパートが活況を呈しているとか高級レストランもかなり混んできているとか、給与やボーナスも少し上げていこうかといった動きも企業の間で出てきています。日本では株式や投資信託を資産として保有する人の割合が少なく、米国のように資産効果が働いて資産増が消費増に結びつくような構図にはなってはいませんが、そのうち土地の価格も上昇するでしょうから、やはり個人や企業がお金を消費や投資に動かすことになるのは間違いありません。これはGDP(国内総生産)の60%程度を占める消費を刺激することにもなりうるわけで、日本経済の景気が本当に浮揚しデフレから脱却できるのではないかと期待しています。

 日本のデフレからの脱却に金融政策が有効であることは以前も指摘しましたが、それは貨幣の量だけで必ずしも調節できることではありません。まず投資家や消費者そして各企業の経営者の"気"がポジティブに変化していき、その中で基本的に需給ギャップと称される「総需要が総供給に満たない状況」が改善され、デフレが解消されてくるのです。

 アベノミクスの「3本の矢」、すなわち金融政策、財政政策、成長戦略のうち前述の通り金融政策については着実に進展しており、財政政策についても2月に12年度補正予算が成立し一応の動きを見せています。補正予算の中身を見ても、かつてのように十分な需要を見込みえない新幹線事業に対して多額の予算を計上するなどというものではなく、劣化した社会インフラを含めた防災・減災に対する投資にも重点が置かれており、大変結構なことだと私自身は思っています。もちろん財政の赤字をどうやって最小限に留めるかも重要です。税の自然増収との見合いで考えていくべきでしょう。

 最後の成長戦略に関しては、大きく言えば新産業育成策と構造政策に分けられると思いますが、新産業育成策については、iPS細胞(新型万能細胞)のような革新的なものに政府としていかなる形で産業の広がりを持たせうるかが大事になってきます。構造政策に関してはさらに規制緩和策と競争政策に分けられると思いますが、規制緩和策については大衆薬のネット販売解禁が少しずつ動きだしており、全面解禁に向けてなおいっそう徹底的に推進せねばならないと思っています。そして、規制緩和策と一体化して進めていかねばならないのが競争政策であり、その競争政策を進めていく流れの中でようやく安倍総理が交渉参加を表明したTPP(環太平洋経済連携協定)もあります。

 TPPは、グローバルに公平な競争を追求していこうという考え方でもあり、今後はますますFTA(自由貿易協定)が世界的な流れとなり全盛時代を迎えていくのだろうと思います。これが結果として競争政策の推進につながっていくことが大変重要だと考えており、農業についても、これまできわめて過保護な部分があったわけで、農地法の改正を行ない国内外での競争に耐えられる農業を時間をかけてつくっていくべきです。

 最後にもうひとつ、競争政策において大事なことは新陳代謝だと私は考えており、時代に取り残され国際競争力を喪失したゾンビ企業はつぶしていくという考え方を持つべきではないかと思います。衰退の一途をたどる企業にいくら追い銭をつぎ込んでも、もはや再生不能であるということが結局わかるだけのことですから、徹底した競争政策により新陳代謝を図りながら、より強い国際競争力を持った産業群を育てるのが、本来の競争政策というものだと私は考えています。

201307_資本主義の未来を見据えて経済脳を磨きなさい! 北尾吉考
(画像=ネットマネー)

北尾吉孝 きたお・よしたか●1951年、兵庫県生まれ。 74年、慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。78年、英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。野村證券で事業法人三部長等を経たのち、95年にソフトバンク入社、常務取締役。99年、ソフトバンク・ファイナンス社長。 現在、インターネット総合金融グループを形成するSBIホールディングスの代表取締役執行役員社長。 『何のために働くのか』(致知出版社)など著書多数。 「face book」にてブログを執筆中。