ネットマネー 2017年1月号より一部を特別公開!

米国でインサイダー取引違反の取り締まりが脚光を浴びている。
100人前後がお縄になったとされ、おとり捜査に加えて、盗聴や強制捜査といった組織犯罪に用いるような手法が用いられたため、全米で注目されるようになった
だが、被告が勝訴するという誤算も生じ始めている。

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(画像=ネットマネー)

弁護士など法曹関係者が集まるPLI(法務協会)では
最近、インサイダー取引に関する勉強会が開催され、
ある刑事事件が話題になった。

「最高裁判所で審議されるなんて、実に20年ぶりですよ……」。通称、「サルマン事件」 についてである。

10月から最高裁での審議が始まった。これは被告が義理の兄弟から発表前の企業情報を取得して株式を購入した事件で、銀行に勤めるもう一人の義理の兄弟がおおもとの情報源だった。

米国の証券取引所法には「10b‒5」と呼ばれる、証券市場の不正行為を取り締まる包括条項がある。インサイダー取引を禁止する法文でもあり、「内部者(インサイダー)は株価に影響を与える内部情報を開示なしに株を売買してはいけない」というルールが確立している。

簡単に言うなら、企業情報の発表に先回りして株式を売買してはならないということ。ウォール街においてインサイダー取引は最も忌み嫌われる証券犯罪のひとつで、内部者(会社)は株主に対して信任義務を負っているとする「信任義務」と、内部情報を不正流用するのは情報源に対する信頼義務違反とした「不正流用」が法的な根拠となっている。

 米国では1980年代からこうした法理論を打ち立て、インサイダー取引を訴追してきたが、ブローカーが内部者とヘッジファンドなどの投資家をつなげる〝ネットワーク型〞の犯罪が増える一方で、インターネットやスマホといったモバイルの通信手段が発達。訴える側の米国政府は挙証責任がある分だけ、証拠集めに苦労している。

サルマン事件は、検察側の苦労を物語る典型的な事件であるともいえる。

判例では「実際に売買する人物は内部者情報が不正に引き出されたうえに、情報の対価を支払った証拠を訴える側が証明する必要がある」とされており、同事件の下級審では「親族間の情報のやりとりの対価は何か?」という哲学的な議論まで交わされてきたからだ。

2001年の同時多発テロ後、米国の捜査機関は100人規模で人員をテロ担当にシフトしてきたが、知能犯罪の担当者が旧来の職場に復帰。そしてFBI(連邦捜査局)が中心となり、2010年ごろから「パーフェクト・ヘッジ作戦」と呼ばれるインサイダー取引撲滅運動が始まっている。

 同撲滅運動では100人前後がお縄になったとされ、おとり捜査に加えて、盗聴や強制捜査といった組織犯罪に使われるような手法が用いられたため、全米で注目されるようになった。

ただ、著名な起業家や大物ヘッジファンド経営者との訴訟に政府が敗訴するなど、同作戦は不名誉な誤算が生じてしまうことでも知られている。その背景には禁止規定が玉虫色であるという事情があり、被告が大枚をはたいて弁護団を雇うと勝訴できるためだ。これは、今回の大統領選挙の主題にも浮上した「金権主義」の問題でもある。

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