ネットマネー 2017年3月号より一部を特別公開!

個人型確定拠出年金「iDeCo」は、自分で投資商品を選んで年金資産を運用する制度。
掛け金の全額が所得税・住民税から控除されるほか、運用で得た利益も非課税になる。 2017年1月からはその加入できる人の範囲が広がり、これまでは加入できなかった公務員や主婦もその対象になった。
これから加入を考えている人に、何を選べばいいのか、どんなことに注意すればいいのかをプロに聞いた。

税メリットだけでなく、今後のライフイベントを把握しておくことが大事

個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」は今年1月から、従来は加入できなかった公務員や主婦も加入できるようになった。その制度変更を前に新聞や雑誌、テレビなどでiDeCoが取り上げられているが、毎月の掛け金の「全額所得控除」、運用で出た利益に対しての「運用益非課税」、実際に年金を受け取るときの「退職所得控除」「公的年金等控除」といった、税金のメリットばかり強調されることが多かった。

しかし、特定非営利活動法人確定拠出年金教育協会で理事を務める大江加代さんは、「税メリットの活用だけを考えて、iDeCoを始めるのは問題」と指摘する。手元資金の少ない人が後先を考えずに毎月掛け金を払い続けると、場合によっては将来困った事態になりかねないからだ。

iDeCoは言うまでもないが、老後の資金を用意するための制度。今までに東日本大震災の被災者に特例が認められたことはあるものの、たとえ生活保護を申請するほど困窮しても原則60歳まで解約できない。「以前は50歳くらいで子供が独立することが多かったので、50代で老後資金を貯め始ることができました。しかし、晩婚化や出産の高齢化で、60 歳前後でも子供にお金がかかる人が多くなっています。ですから、長期的視野でライフイベントを考慮し、60歳まで拠出したお金が手元に戻らないことを踏まえて掛け金を考えないと、必要なときに現金が足りなくなる可能性があるんです」(大江さん)

60歳まで解約できないとなると、不安を感じる人も多いだろう。だが「加入時に決めた毎月の掛け金の額は、1年(4月~翌年3月)に一度だけ変更できますし、掛け金を拠出するのが難しくなったときは休止も可能です」と大江さんが言うように、ライフイベントに合わせた拠出も可能だ。

ただし、休止期間中でも加入者として口座管理料(休止前より月額103円安くなる)がかかるほか、休止期間は加入期間から除外されるため、加入期間で決まる退職一時金を受け取る際の控除が小さくなるといったデメリットがある点には留意しよう。 ところで、自営業者は以前からiDeCoに加入できたが、現在でも加入できる人のうちの約95%が未加入だ。「自営業者は国民年金だけで年金受給額が少ないので、可能な限り加入したほうがいい」と大江さんは指摘する。未加入なら、これを機に加入を検討してみてはどうだろうか。

お金を守るため、増やすためのスキルをiDeCoを使って学ぶ

退職後に、金融機関の窓口で勧められた投資信託に投資して、虎の子の退職金を大きく目減りさせてしまう人が少なくない。大江さんによると、窓口で勧められた商品のことがわからなくても「わからない」と言えず、内容を理解しないまま投信を買ってしまう人が、特に男性に多いというから要注意だ。 その虎の子の退職金だが、退職後に資産が大きく目減りすれば深刻な問題になる。そうならないためにもiDeCoで投信を売買しながら、「失敗できないお金を守るスキル」「大切なお金を増やすスキル」を勉強しておこう。

現在、金融機関が用意する投信は「手数料が安く、大ケガをしにくい商品がラインアップされている」(大江さん)ので、比較的少ないリスクで投資経験を積むことができる。 本や雑誌でいくら勉強しても実際に売買してみないと、購入した投信が値下がりしたときに、どう自分の心が動くかはわからない。しかし、iDeCoで投信を購入すれば、価格の上下動によって自分の心がどう動くかを体感することができ、それによって自らのリスク許容度がだんだんと見えてくるようになる。リスク許容度が把握できれば、より自分に合った投資行動を起こせるようになるはずだ。

手続きをしないまま「自動移換」になるとお金を受け取れない

大江さんによると、かつて勤務していた会社で企業型に加入していたが、退職後は個人型に移行しなければならないのに、その手続きをしていない人が多いという。主婦になった人などは要注意だ。
「退職後6カ月以内に企業型から個人型への加入・資産移換などの手続きを行なわないと、資産は国民年金基金連合会に"自動移換"されます。現在、自動移換者は約57万人、残高は1400億円超に上りますが、そのままでは60歳になっても年金は受け取れません。心当たりがある人は、自動移換者専用コールセンター(左参照)」に問い合わせてください」とのことだ。

30代、40代、50代 目標利回り別かんたんiDeCo運用法

2017年から自営業者や会社員だけでなく、公務員や主婦なども加入できるようになった。
これまでに数多くのiDeCo関連のセミナーで講師を行なってきたあいおいニッセイ同和損害保険の関学さんが年代別の運用について活用法を解説する。

まずは元本確保型と4タイプの投信から投資先を選ぼう!

「iDeCoは、加入後に自分が拠出したお金を自分で運用しなければなりません。加入者は定期預金や投資信託などの中から、『何に、いくら投資するか』を指示する必要があります」と語るのは、これまでに数多くのiDeCo関連のセミナーで講師を務めてきた、あいおいニッセイ同和損害保険の関学さん。

定期預金など元本確保型の商品と、元本が保証されていない投信から運用先を選ぶことになるが、投信は大きく「国内債券」「国内株式」「外国債券」「外国株式」の4つに分類される。運用指示をする際には、老後に受け取る年金であるという目的を押さえながら、現在の年齢や目指したい目標利回りを勘案して、自分なりのポートフォリオを構築することが重要だ。「最低でも10年、できれば20年以上の運用期間が必要だと考えています。"失われた20年"という言葉があるように、日本はデフレ経済が20年も続きました。投資期間が短いと、こうした景気循環のサイクルから逃れられない可能性が高くなるからです」(関さん) しかし、どの投資商品を、どのくらいの配分で投資すればいいのか迷ってしまう人は多いだろう。

その前に注意しておくべきことがある。関さんが指摘するのは、運用方針を決める前に「iDeCoはあくまでも資産全体の一部である、と認識することが重要」という。 たとえば、預貯金5000万円と、預貯金100万円を保有する人が利用する場合では、資産全体に対するiDeCoの占める割合が異なるということだ。
「多くの人はiDeCoに拠出したお金だけを見て、資産配分を考えますが、ご自身の資産に占めるiDeCoの割合を勘案しなければ、バランスのとれた投資にはなりません」(関さん)

「安定運用」は1~2%、「バランス運用」は3~4%、「積極運用」は5%以上を

保有資産は人それぞれなので一般化は難しいが、関さんに30代、40代、50代で、目標運用利回り別にモデルケースをつくってもらった。それが左ページのグラフだ。「安定運用」「バランス運用」「積極運用」の順に目標利回りは高くなっている。だが、年齢が高くになるにつれ、目標利回りは保守的な設定となる(次ページの円グラフ参照)。

まず30代だが、この世代は働ける時間が長いため、多少高いリスクを取ってもいい。「30代であれば、少なくても利回り2%以上は目指したいところです」と関さんが言うように、掛け金の所得控除、運用益が非課税になるiDeCoのメリットを生かすためにも、積極的に投信の比率を高めることを考えたい。モデルポートフォリオでも全体的に株式の運用比率が高くなっている。

40代は、30代に比べて保守的になり、株式の運用比率が下がり、債券や元本確保型の比率が高くなる。一方、50代は関さんが「極論すれば人それぞれ」と言うように、iDeCo以外に保有する金融資産の状況によっては「積極運用」をしてもいいだろう。ただし、金融資産がないなら、リスクを減らすために「安定運用」を行なうのが鉄則だ。

なお、「元本確保」をうたっている商品の中には、スイッチング(商品の乗り換え)すると、その手数料によって元本割れする可能性を含む商品もあるので、内容をよく確かめるなどの注意が必要だ。

投信についての基本を十分に理解してからiDeCoで運用する

次ページの表を見るとわかるように、なかには50本以上の投信を用意する金融機関もある。一見、選択肢が増えていいような気もするが、迷ってしまい、選べなくなる人も多いという。もし選択に悩みそうであれば、投信のラインアップを厳選して絞り込んでいる金融機関を選ぶ手もある。

関さんの話では、セミナー参加者の平均7~8割、多いときは9割以上の人が投信を理解していないという。実際に「投信は指値注文できないのか」「注文しても、すぐに約定しないのか」といった初歩的な質問をされることが珍しくないそうだ。最低限、自分の大事なお金を運用する投信の基本的なことは理解しておこう。

最後に、どんな気持ちでiDeCoの投資をするべきか関さんに尋ねると、次のような答えが返ってきた。
「個別株やFX(外国為替証拠金取引)などと違って、投信は機動的に売買するものではありません。最低でも2~3年のスパンで投資を考えたほうがいいでしょう。また、私たち日本人は上がるとすぐに売ってしまう傾向が強いので、『バイ・アンド・ホールド』より『バイ・アンド・フォゲット』くらいの気持ちで、年金資金をじっくり育てる心構えも必要かもしれません」