ネットマネー 2017年5月号より一部を特別公開!

日米貿易摩擦が本格化した1980年代、米国の貿易赤字の60%が対日本だったが、今やその数字は10%に落ちている。
また、米国の自動車を日本で売れなくしていると指摘するが、欧州勢自動車メーカーは日本で健闘している。
事実関係の軽視はトランプ政権の特徴だが、日本勢はたまったものではない。

言葉の壁、年功序列制、根回し―。

 1999年から2002年までマツダの社長として日本に駐在した米国フォード・モーターCEO(最高経営責任者)のマーク・フィールズ氏は、日本独特の文化になじむまで、だいぶ苦労したと聞く。マスコミ対応にも悲鳴を上げた。

 フォードは当時、マツダの大株主かつ提携先だった。マツダはバブル期に拡大した生産・販売網の採算が悪化して経営危機に陥っており、フォードが主導したリストラの水先案内人として派遣されたのがフィールズ氏だった。 

 地方の名門企業再建に派遣された “青い目の社長” 。プライバシーを重視する米国においては記者が取材先個人に “夜討ち朝駆け” をかけることはめったにないが、日本のマスコミがフィールズ氏を放っておくはずがなかった。 

 あるとき、フィールズ氏が夜中に帰宅したところ、玄関脇の暗闇から、「話を聞かせてほしい」と全国紙の記者が急に姿を現した。フィールズ氏は腰が抜けるほど驚き、こう叫んだそうだ。「こんなことを米国でやったら、銃で撃たれててもおかしくないぞ!」

慣れない日本での生活から15年。

 フィールズ氏率いるフォードが、“日本叩き” をはじめとする保護主義をちらつかせるトランプ大統領に接近したのは自然の流れだった。 

 フォードの創業一族であるビル・フォード会長とトランプ氏は近いとされている。年初開催の集まりに登場したフォード氏は、トランプ氏と「税制、為替、貿易」の分野に関して情報交換をしていると明かした。 

 フィールズ氏もトランプ氏と2回ほど会談している。会談後、「貿易障壁の最大の問題は為替操作で、TPP(環太平洋経済連携協定)では対応できない」と暗に日本を批判した。

 フォードは中国の橋頭堡を維持するためにマツダとの提携を解消し、ついには日本撤退を決めたのでしがらみがない。日本がTPPに参加することに対して、日本を「保護主義的」と言い触れ回っていたのは有名な話である。 

 2月に訪米した安倍首相とトランプ氏との日米首脳会談では、麻生副総理とペンス副大統領による経済対話の枠組みを設けることで決まった。今後、米国自動車業界を側面支援するために、日本の貿易障壁が俎上に乗る可能性は高い。 

 日米貿易摩擦が本格化した1980年代、米国の貿易赤字の60%が対日本だったが、今やその数字は 10%にまで下がっている。フォードよりも先に米国のクライスラーも日本を撤退したが、だからといって外国車が売れていないわけではない。日本での欧州勢自動車メーカーは健闘しているからだ。 

 格差問題に代表される労働者階級の雇用がなかなか生まれにくいという米国の「内患」を「日本が不公正な貿易をしている」という間違った「外憂」の論にすり替えている。事実関係の軽視はトランプ政権の特徴だが、日本勢はたまったものではない。

撮影●村越将浩