ネットマネー 2017年5月号より一部を特別公開!

建機用油圧フィルタでシェア首位

昨年11月の米国大統領選挙の衝撃的な結果を受け、市場で取りざたされた「トランプ銘柄」。米国の公共投資の大盤振る舞いを期待したその銘柄の筆頭格ともいえるのが、建機用油圧フィルタではシェアトップを誇るヤマシンフィルタだ。もっとも、そのにぎにぎしい話題性とは裏腹に、同社は地味ながら着実な成長戦略を描いている。

取材・文●西川修一 撮影●石橋素幸

中国の2兆元の公共投資で、業績回復に大きな期待が。IoTで建機の “血液診断システム" 構築を目指す

2兆元の公共投資で中国が景気回復へ。買い替え需要と重なる

「底からようやく持ち上がりつつあるというところで、決して絶好調というわけではありません」 ―。建設機械用油圧フィルタでシェア首位を誇るヤマシンフィルタの山崎敦彦社長は、本誌が「絶好調」と水を向けると苦笑したが、同社株の値動きは、昨年11月の米国大統領選挙以来、うなぎ上りとなった。

米国のトランプ新大統領の唱えるインフラ投資の拡大で、建機がフル回転する……との期待が先行する「トランプ銘柄」の筆頭格とされていることが上げ材料である。

油圧フィルタは、人体でいえば血液や血管にあたる油圧システムの油に生じるゴミを濾こして取る、いわば “建機の腎臓" 。必要不可欠な部品だ。もっとも、山崎氏がリアルな手応えを感じているのは中国市場だという。

「ほぼ毎月中国を訪れていますが、持ち直してきた印象。昨年夏か秋口以降、急激に建機の増産が始まった。日本の建機メーカーさんはまだ慎重ですが、中国メーカーは『完全に景気回復』です。増産に部品が追いつかず、エンジンがない、ポンプがないという状態」。中国・徐州市の国営企業が夏頃に、秋には中国最大手が、続いて日系大手が増産に入ったという。

「昨年3月の全人代(全国人民代表大会)で出た、高速鉄道や高速道路の整備など2兆元(約33兆円)の公共投資の話が、半年後に効いてきたということでは? これは1年、2年では終わりません」

ブルドーザー、ダンプトラック、ホイールローダーといった建機は、5〜6年ごとに買い替え需要が生じる。前回のピークだった2011年、2012年から再び立ち上がるサイクルが今年、公共投資と重なったと山崎氏は言う。

「昨年4月、中国大手にヤマシンのフィルタを正式にご採用いただきました。2017年度は、中国建機市場の売上高が前年比2割増となる可能性が高い」では、この “大波" に乗る準備はできているのだろうか。

主要製品の内製化で各メーカーの要求へのきめ細かい対応が可能

「フィルタにとって大事な部品といえば、ろ材です。普通、フィルタメーカーは紙屋さんから買ってきた紙を加工してフィルタにしますが、当社は1970年代から自前でろ材を開発、生産、販売しています。昔はろ紙、今はろ紙の繊維よりずっと細いガラス繊維を使っています。これをシート化する技術を独自で開発したんです」内製フィルタにはこだわりを持ち続けているというが、それには理由がある。

そもそもフィルタのろ材とは矛盾を抱えた部品だ。スムーズに駆動力を伝えることが油圧システムのそもそもの役割。だが、ふるいの目を細かくすると、細かいゴミまで取れる半面、通過抵抗が高まり、目詰まりしやすくなる。

「この矛盾をどう両立させるかがフィルタの技術。しかも、どちらにこだわりを持つかがメーカーによって異なります。たとえば、米国メーカーはどれだけたくさんのゴミが取れるか、日本のメーカーはいかに油がサッと抜けるかに重点を置きます。すると、ほかからろ材を調達していては、個々のお客さまのニーズに対応したジャストフィットするフィルタは供給できません」

おもしろいのは、ビジネスモデルが本体ではなくインクやトナーで儲けるプリンターと似ていることだ。

「新規向けと補給用を比べると、利益率は補給用のほうが高い。なぜなら、新規生産の建機と稼働中の建機とでは、稼働中の建機のほうがずっと多いんです。しかも、景気が後退すれば建機の新規生産は落ちてしまいますが、各国が公共投資を行なうので現場の建機は動き続けます」

では、山崎氏が「これからの3年、5年で成長戦略を描いてやっていく」という、その中長期戦略の内訳は?

「まず、中国ですね。高度成長のピークは過ぎたものの、それでもGDP(国内総生産)成長率は6%台。内陸部にはまだまだ開発余地があると思います。建機の需要が今後も安定して伸びていく市場なので、ここはしっかり営業展開してシェアを取っていきたい」

もうひとつは米国だ。世界で断トツの “ガリバー" 、米国キャタピラーは、建機部門の売り上げだけでも日本の建機トップの倍。ヤマシンは1995年に販売会社のヤマシンアメリカを設立したものの、国内メーカー並みの十分なアプローチを確保できていなかったようだ。

「建機は乗用車と同様、4年に一度モデルチェンジを行ないます。そのタイミングは種類や大きさによってバラバラですが、ヤマシンにとってはピンチでもチャンスでもあります。これまで他社さんのを使っていたが、次からはヤマシンに、といううれしい場合もあれば、逆もあります。だから、国内メーカー向けに実績のあるフィルタでまだ外資系に出ていないものを洗い出して、モデルチェンジのたびに『こういうフィルタをこのくらいの価格で』と売り込んでいけば、計算上は売り上げが倍増してもおかしくない」

中国や米国でそれぞれの車種ごとに、内製の強みを生かして、微妙に異なる各社の方針に合わせて「次のモデルにはこういう使い方をすべきでは」などときめ細かでジャストフィットした提案を行ない、シェア拡大につなげていく――、これが当面の基本戦略になるという。

「新興国で今も使われるひどく汚れた軽油に、他国製は対応できていませんが、ヤマシンは新興国向けフィルタを開発しました。昨年、中国大手にご採用いただいたのはそれです」

IoTで可能にする世界中の建機の “定期健康診断"

今後の目玉はIоT(モノのインターネット)。人に例えると、どこにいても “定期血液検査" が行なえるシステムだ。

「油圧システムの油の現時点での洗浄度をセンシング(センサーで計測)して、そのデータをGPS(全地球測位システム)で飛ばす。中国奥地でも南米やアフリカでも、世界中の建機の〝健康状態〞をチェック、故障を予知できます。今、センサーと併せて開発中で、大手メーカーさんに実機試験をしていただいているところです。この分野では最先端だと思います」

一度きりではなく定点・定時観測で蓄積したデータをもとに、故障を予知するわけだ。世界中に定期的に人を派遣して油の検査を行なうコストがカットできるのは大きい。地道な活動も続けている。新興国の偽物・コピー品対策だ。ここ10年ほど、建機メーカーとともに辛抱強く啓蒙活動を続けてきた。

わずかなフィルタ代金をケチって高価な油圧部品をダメにするのが、いかにばかばかしいか。各所で集めた人々の目の前で純正品と偽物の性能テストを行なうことで、初めて納得してもらえるという。

「10年前、中国国内で使われている日系の建機で、純正品の使用率はごくわずかでした」

今はようやく活動の効果が出てきたという。「真面目にコツコツやる」ことを自負している同社、地味だが堅実かつ着実な成長がこれからも期待できそうだ。

COLUMN 建機の “腎臓" で世界シェア7割

リーマン・ショック以降、販売累積数は10倍以上に**

油圧ショベル、ブルドーザー、ダンプトラックなど土木や建設作業に使われる建機。建機を動かしているのは、油圧です。油圧で動かすには、大量の油が必要ですが、建機を稼働させば、徐々に汚れてきます。この汚れを取り除くのがフィルタ。人体でいえば “腎臓" の役割を担っています。

ヤマシンフィルタは、この建機用フィルタで、世界シェア約7割を握るグローバル・ニッチ ・トップ企業です。建機の新車搭載用と交換用フィルタの2つの売上高がありますが、建機の稼働時間に応じて、交換用フィルタが必要。リーマン・ショック以降で販売累積数は10倍以上に伸びており、交換用フィルターの需要も右肩上がりです。

※本コラムは筆者個人の見解となります。