ネットマネー 2017年5月号より一部を特別公開!

「行きはよいよい、帰りは怖い」…日銀のETF購入

日銀は国債を毎年80兆円購入する政策に加えて、年間6兆円ペースで株式指数連動型ETFを購入している。市場に資金を大量に供給して、デフレ脱却と景気回復を早めようというのだ。株式市場にとっては、コンスタントに6兆円もの新規買いが入ってくるので大歓迎である。アベノミクスに期待して流入した外国人買いの、およそ半分という大規模な日本株買いである。それを毎年行なってくれるというから恐ろしく強力な買い支え要因だ。

しかし、 日銀のETF購入はいくつかの問題をはらんでいる。株式市場にとって、吉と出るか凶と出るか…。そのあたりを整理しておこう。

アベノミクスでは、堂々と株価の上昇を政策の前面に打ち出した

デフレ克服と景気回復を促進するのに、株価上昇による資産効果を狙うのは、きわめて賢明な政策である。いつの株価上昇も景気回復の即効薬となるが、歴代の政権はそれを口に出すのさえためらってきた。なぜなら、金持ち優遇政策と批判されたくないからだが、安倍晋三内閣におけるアベノミクスでは、堂々と株価上昇を政策の前面に出している。

問題は、株価を上昇させる方法論だ。日銀なり公的年金なりが、大量の資金で株式を購入し続けて、市場での売りをどんどん吸収していくのはかまわない。しかし、それをETF(上場投資信託)の購入でというのは絶対にマズイ。

日銀としてはETF購入なら、株価全般の押し上げにつながり、個々の企業に肩入れするような “恣意性" は働かないという判断なのだろう。確かに、ETFならどの企業の株式も満遍なく買い入れるから、恣意性を糾弾される恐れはない。

しかしその半面、市場の持つ適者生存の淘汰機能をないがしろにする懸念は高まっていく。本来なら業績不振などの経営問題で株価が下落し、市場からの撤退を迫られるはずの企業の株式も、どんどん買われるのだ。これでは経済合理性が働く余地はない。

さらには、最近よくいわれる企業のガバナンス(企業統治)や機関投資家のスチュワードシップ・コード(*1)などにも逆行する。きちんとガバナンスがなされているのか、そのあたりを機関投資家がしっかりとチェックしているのかを問う政策の流れを、日銀のETF購入は全面否定しているのだ。

なにしろ、個別の企業を丁寧にリサーチして選別買いを行なうまともな株式投資なら、見向きもしないような企業の株式までも一律に買っていく。 市場の持つ選別機能を初めから封印してしまうのが、日銀によるETF購入なのである。

*1スチュワードシップ・コード(Stewardship Code)…企業のガバナンスを向上させる取り組みとして、企業経営の収益力向上と企業不正を監視する役割を果たす、機関投資家から投資先企業に働きかける行動規範。英国で2010年に策定され、日本では「『責任ある機関投資家』の諸原則」として2014年2月に金融庁が策定した。

株価上昇を狙うなら、より賢明で持続効果の高い施策がある!

おそらく、株式市場は2年後あたりから徐々に警戒モードを高め始めるだろう。日銀によるETF買いが、株式市場の需給をタイトにしてくれるのは歓迎だが、いざ売りに転じたときを想定すると、市場関係者は頭を抱えたくなるはずだ。まさに「行きはよいよい、帰りは怖い」となる。

いくらでも買い手がつくような株式なら、日銀が売りに出しても株式市場では容易に吸収できる。ところが、日銀のETF購入は、誰からも見向きもされないような企業の株式までもを大量に買い込んでいく。それらを一斉に市場放出するのだ。買い手がまったくつかず、株価は奈落の底へと落ちて行き、株価全般も大きく押し下げることに……。

通常ならば、市場の淘汰機能によってダメな企業は徐々に市場から退出していく。ところが、日銀のETF購入により、それらの企業が生き永らえてしまうのだ。そして、ETF売却時には、まとめて強制排除されることになる。そのときは、すさまじい株価下落が起こることを覚悟するべきだ。そのころには、日銀の黒田東彦総裁はもう現在の職にないかもしれない。だが、後任の総裁はいったいどうやってETF大量購入の後始末をつけるのだろうか。

日銀にしても、公的年金にしても、どうしてもっと賢い手を打たないのか。株価上昇を狙うのなら、はるかに賢明で持続効果の高い施策がある。

年間6兆円の資金を株式型投信や一任運用の会社で競争運用させる

たとえば、日銀が年間6兆円の枠を提示して、株式型の投信や一任運用会社に競争運用させるのだ。条件は日本株の現物株運用に限定して、〝われこそは!〞と名乗りを上げる運用会社を公募する。そして、4回に分けて均等の額を配分する。仮に100社が名乗りを上げれば、150億円ずつ年4回の運用割り当てを行なう。2年目以降は、積み上がった累積の成績によって、割り当て配分に差をつける。その場合、運用状況ならびに成績は完全にオープンとする。

この方法ならば、どの運用会社も個別の企業をしっかりとリサーチしたうえで、丁寧に選別買いを進めるだろう。そうなれば、市場の淘汰機能もフル回転する。四半期ごとに1.5兆円の株買いの資金が新規投入されるのだから、業績の裏づけがある企業を中心に、株価全般は大きく押し上げられていくはずだ。

もちろん、各運用会社はそれぞれの投資判断によって、個別株の売買は自由である。それでも毎年6兆円の新規買い資金が投入されるから、どちらかというと “買い長(*2)" のポートフォリオを構築することになる。個別企業の見直しも随時なされるから、ごく自然体で適者生存の市場機能が発揮されることだろう。

では、日銀が株式購入をストップし、売りに回ったときはどうするか。まったく問題ない。各運用会社の保有株は、何の支障もなく市場で吸収されていく。完全オープンな運用競争をさせれば、どの運用会社も企業リサーチ力や個別株の運用能力は鍛えられる。企業のガバナンスやスチュワードシップ・コードなども、厳しく反映されるので、市場の健全さは保たれるわけだ。

*2買い長…信用取引の買い残が売り残より多いこと。

澤上篤人 さわかみ投信取締役会長

1947年、愛知県名古屋市生まれ。73年、ジュネーブ大学付属国際問題研究所 国際経済学修士課程履修。ピクテジャパン(現・ピクテ投信)代表取締役を経て、96年にサラリーマン世帯を対象にさわかみ投資顧問(現・さわかみ投信)を設立。『国債暴落をものともしない長期投資』(小社刊)、『お金に支配されない生き方』(ビジネス社)など著書多数。

撮影●矢木隆一