ネットマネー 2017年6月号より一部を特別公開!

米国を代表する銀行家が逝った。大富豪ロックフェラー家の3代目当主、デービッド氏だ。
国際化を進め、社会還元を「競争で勝った強者の責任」とし、自由主義経済の効用を説いてきたデービッド氏の逝去は、保護主義が台頭し、金持ちが格差拡大に目をつぶる状況である「米国の美徳の“死"」と重なってくる。

3月20日、米国を代表する銀行家が逝った。

大富豪ロックフェラー家の3代目当主、デービッド・ロックフェラー氏である。

知り合いの紹介で、デービッド氏を取材したことがある。勲一等瑞宝章を受章した親日家で、ニューヨークの日米親睦団体「ジャパン・ソサエティー」名誉会長だった。高松宮殿下記念世界文化賞の名誉顧問でもあった。

摩天楼を見下ろすロックフェラーセンターのオフィスには
印象派の絵画が1メートルおきに飾ってあり、
美術館に迷い込んだ気分になった。

印象派のコレクションで知られるニューヨーク近代美術館の設立に、デービッド氏の母が携わっただけのことはある。

デービッド氏の祖父ジョン・シニア氏は石油メジャーのスタンダード・オイルの創始者だ。一族の資産は、最盛期には米国の国内総生産の1割を占めていたという。

1915年、ニューヨーク生まれ。取材した2007年当時のデービッド氏はかくしゃくたる92歳で、自由主義経済の効用を説いていた。経済に行き詰まった国々で共産主義や全体主義が台頭した激動の時代に青春期を過ごした反動で、「『個人の自由』が前提になっている市場型経済」の信奉者となったのだ。

大学で師事した経済学者のシュンペーターに「最も影響を受けた」という。シュンペーターが説く、「企業家のイノベーション(技術革新)」に、成長を続ける資本主義の将来を予感したのだ。

第2次世界大戦への従軍後、本格的に銀行家の道を歩む。そして、世界最大の銀行である米国JPモルガン・チェースの前身であるチェース・マンハッタン銀行の経営トップに上り詰めた。民間と政治の間を人材が行き来する「回転ドア」や「民間外交」を支持。デービッド氏にとって、政府と企業は「国力」という名のコインの裏表だった。

世界各地で事業展開したチェース銀行はドル本位制、一族が所有した石油メジャーは米国のエネルギー権益を代弁していた。ロックフェラー家は政府と二人三脚をする格好で、米国を覇権国家に導いたのだ。「米国の強みは?」という質問に対して、デービッド氏が「エネルギーへのアクセス」と答えたのが印象に残っている。

金持ちは寄付、大国は国際貢献。つまり、社会還元を「競争で勝った強者の責任」として掲げていた。ロックフェラー家は政治家を輩出し、デービッド氏は大学や美術館に寄付した。

ニューヨークのシンクタンク、米国外交に影響を与えるCFR(外交問題評議会)は、デービッド氏らの支援を受けて立ち上げられたことで知られている。

デービッド氏は米国の力の源泉だった「グローバライゼーション(国際化)」と「ノブレス・オブリージュ(高貴なる者に伴う社会的義務)」を象徴する人物だった。

折しも、今の米国は保護主義が台頭し、金持ちが格差拡大に目をつぶる状態……。デービッド氏の逝去は「米国の美徳の“死"」と重なる。