ネットマネー 2017年7月号より一部を特別公開!

セキュリティーソフトで国内最大手!

2017年3月期の売上高は、過去最高だった2016年3月期の40億円から大幅な25%アップを予想、「5年以内の100億円到達は難しくない」と豪語するセキュリティーソフトメーカー。
インターネット黎明期に、早くも有害サイト遮断ソフトを独自開発した業界のパイオニアの社長は、拡大する一方の市場を前に自信をのぞかせる。

取材・文●西川修一 撮影●石橋素幸

盗まれたファイルを遠隔操作で消去! 画期的なソフトは米国オバマ政権のサイバーセキュリティー高官もお墨付き

輸入品販売や、受託開発とは異なる希少な上場ソフト会社

「日本の上場会社で、うちのようなソフト会社って、意外とないんですよ」、そう強調するのはデジタルアーツの道具登志夫社長だ。

同社は、情報漏えい防止用のソフトでは国内最大手だ。ゲームソフトをはじめ、株式市場にあまたあるソフト開発会社の中で、道具氏が自らの"特異性"を主張するのには、それなりの理由があるようだ。

「セキュリティーのような"真面目"なソフトを扱っている会社の中で、輸入品を販売しているところや受託開発しているところと当社とが異なるのは、自社でアイデアを出し、自社でつくって世界で売っているところ。上場企業でそういう会社はほんの数社しかありません」

自分でモノをつくれるところはやはり強い、と道具氏。
「下請けだけやっていては、先行きに発展がありません。環境が変化しても対応できる、メーカーとしての強みを持っています。投資家の方々に、その違いを強調したい」

2017年3月期の予想売上高50億円から「5年以内の100億円到達は難しくない」と道具氏が語る同社の商品ラインアップを見てみよう。

売り上げの7割を占める主力ソフトの「i-FILTER(アイフィルター)」は、有害サイトへのアクセスの遮断で圧倒的な精度を誇る。
インターネットが普及してまだ間もない1998年に販売を開始(当時の商品名は「ネットフィルター」)したパイオニア商品として、日本語特有の文化を熟知した対応力への評価が高い。さらにメールの誤送信などに対応する「m-FILTER(エムフィルター)」に加え、画期的なデータファイルの暗号化・追跡ソリューション「FinalCode(ファイナルコード)」が新たな売り上げの柱として期待がかかる。

これは、データの防御に100%が望めぬ今、攻撃を許した場合の二重、三重の防御を狙ったものだ。
重要なファイルを誤送信したり、外部からの侵入者に盗まれたとしても、ファイルが開かれたり印刷されたことを察知でき、かつファイル自体を遠隔操作で消すことができる。大企業の引き合いが多数あるという。

「米国子会社を立ち上げた2014年、ハワード・シュミットさん(米国オバマ政権のサイバーセキュリティー特別補佐官)がFinalCodeのプレゼンをご覧になって、『これは世界を変える』と、米国子会社の役員に就任していただいたんです。残念なことに、今年3月に病気で亡くなりましたが......」

冒頭で道具氏が触れた「メーカーとしての強み」には、続きがある。
現在、約200人いる社員は約半数が開発担当。3分の1が営業だが、年1割程度ずつ増員中だ。
「ソフトメーカーのコストは、基本的に人件費。現在、それが年2億円増えています。でも、売り上げが5億増えれば、差額の3億は利益になる。単純な引き算です。さらに、自前の電算センターやサーバールームはほぼなし。今後、今あるソフトだけでいくなら、売り上げが10倍になったとしてもコストは変わりません」

急速に進んだ自治体の情報セキュリティーが売り上げの急伸に貢献

そんな同社には現在、大きな順風が吹いているようだ。
かつては官僚や経営者、個々の社員の危機意識が希薄で、自治体、企業を問わず、セキ ュリティーソフトの組織的な導入は消極的になりがちだったが、近年、様相が一変した。
「昨年7月から1年間、総務省が47都道府県をはじめとする全国の自治体向けに、ウェブとメールのセキュリティー強化策の予算をつけたんです」

2015年5月、日本年金機構のデータベースが「標的型攻撃メール」の標的となり、125万人分の個人情報が漏えい。2016年1月のマイナンバー制度施行を控えていたこともあって、総務省は自治体情報セキュリティー検討チームを立ち上げるなど、官公庁の情報セキュリティーに本腰を入れたのだ。
「自治体の意識が相当上がって、『i-FILTER』『m-FILTER』の官公庁の売り上げが例年よりもかなり強くなっているほか、ガイドラインの指示にはなかったFinalCodeに関しても引き合いがありました。うちの独占市場ではありませんが、前3月期の数字にも反映されるし、今期以降も業界としては非常にポジティブです」

メールとウェブのセキュリティーに関しては、今年7月にいったん区切りがつく。
「マイナンバーや住民情報は、すでに通常のインターネットから隔離され、ウイルスや標的型メールにはさらされなくなりました。情報セキュリティーに関しては、各自治体が民間企業を一気に超えてしまったんです。すると、今度は意識の低かった民間に『追いつこう』という意識が生まれ、おそらく経済産業省がセキュリティー対策を促す、という流れになっていくと思います」

道具氏が次に注目しているのが学校だ。総務省が、2020年までに全国のすべての小・中・高校に無線LAN「Wi-Fi(ワイファイ)」を導入する方針を掲げている。
「今までは、学校に備えるパソコンは特定の教室に50台そろえ、そこへ生徒がクラス単位で移動して授業を行なう形でしたが、Wi-Fi整備により生徒一人一人がタブレット1台を所持し、各教室でタブレットを使った授業を行なえる体制を目指すもの。すでに4月から始まっています」

当然、セキュリティー対策、特に有害サイトなどのフィルタリングが必須となる。
「Wi-Fiの背後にi-FILTERを入れる方向で営業活動を行なっていきます」

拡大するIoT市場でリアルな世界の安全保障にコミット

現時点では、1校当たり1室あるパソコンルームにだいたい50台、50ライセンス分がi-FILTERの市場で、シェアは6~7割。それが教師や生徒も含めた全校分、数百ライセンスと10倍規模の市場が生まれる計算だ。
「将来的には、震災など非常時でも携帯電話がつながるよう、Wi-Fiを学校だけでなく地域にも解放していくことになるとみています。いずれは地域住民の方々も、i-FILTERの販売のターゲットにする見込みです」

需要は拡大しそうだが、今後、同社が新たに挑むのは、ほかならぬIoT(モノのインターネット)市場である。
「いろんな産業がネットワークでつながる時代になりつつあります。パソコン、スマートフォンだけではない。自動車や電化製品など、これまでまったく縁のなかった製造業と関わりを持つことになります。やらなければならないこと、やれることが広がっていく一方。われわれにとってポジティブです」

セキュリティーという切り口でいえば、パソコンやスマホならば起動しなくなる、データがなくなる、盗まれるといった範囲に被害はとどまったが、今後はリアルな世界の安全保障に直結する。
「たとえば、自動運転中の自動車がハッキングされて、すべての車が時速300キロで走り始めたりしたら、下手をすると人間に直接被害が及ぶようになるし、その規模も大きくなります。今でも交通事故があるとはいえ、セキュリティーには99%でなく100%が求められるのでは」

となると、問われるのは同社の自社開発能力、構想力だが、現在の収益体質を維持しつつ、急速に拡大していく市場に今後もコミットしていけるか、注目したい。