ネットマネー 2017年8月号より一部を特別公開!

ブレグジット、トランプ大統領誕生と保守派の波が押し寄せる中、北朝鮮問題やイランの弾道ミサイル開発など、世界情勢は不透明感を増すばかりだ。そうした中、残高を伸ばす金投資市場。やはり「有事の金」の流れに乗るべきなのか。
取材・文●酒井富士子(回遊舎)撮影●谷川真紀子

「有事の金」以上の強さが見られる金価格の相場動向

2016年初頭には1061ドルで取引を開始した金価格(ニューヨーク金先物価格)だが、前年の2015年12月にFRB(連邦準備制度理事会)がリーマン・ショック後初の利上げをしたことが引き金となり、底を脱した形だった。その後、上下動を繰り返しながらも徐々に水準を切り上げ、1200ドル台に位置していた金価格が、昨年6月には一気に上昇して1300ドルを突破した。そのきっかけとなったのが、いわゆる「ブレグジット(英国のEU<欧州連合>離脱)」だった。
「ここでも『有事の金』によるイベント反応型かと思えましたが、その後は一度下がったものの、下値がある程度のところで止まり、また上昇しているのが今の金価格の特徴」と解説するのは、ICBCスタンダードバンク東京支店長で貴金属アナリストでもある池水雄一さん。

これからの大相場も期待される金相場を見てみよう。

金相場の悲観&楽観シナリオ

2017年は、金が買われる理由となる欧州やトランプ大統領に代表される政治情勢の不安定感と、金にとってネガティブ要素となる利上げの両面がある。今年の相場にはどんなシナリオが考えられるだろうか。

先々を考えると、利上げもプラス要素になりうることも

金相場が2016年初めを底として、上昇基調に乗った理由を考えてみよう。
「金の特徴は"利息を生まない"ことと"無国籍であり、現物がある"ということ」と解説するのは、本誌連載でもおなじみ、金融・貴金属アナリストの亀井幸一郎さん。

まず利息を生まないということから、「金利」に対してはネガティブな動きをする。それは2012年後半、米国の金融緩和政策であるQE(量的緩和)3が息切れしていると市場が先読みして下落局面に入ったことで明らか。その後は、利上げ観測が何年も続く中、金が売られ続ける相場となったわけだ。
「それが一転、FRBが一度利上げすると、金は買われだしました。利上げが織り込まれたうえで、売られすぎた金を再評価する動きとなったのです」(池水さん)

さらに、「利上げが繰り返されると、ある時点から金価格も大きく上昇するのが過去の例。将来を考えると利上げも金のプラス要因です」と経済ジャーナリストの田嶋智太郎さんの指摘もある

ブレグジットで高騰した昨年の金。今後も有事で上昇か

そしてもうひとつの特徴が、無国籍であり、現物の裏打ちがあることだ。
「それが『有事の金』といわれるゆえんです。2016年6月の英国のEU(欧州連合)離脱決定時に大きく値を上げたのはその典型です」(亀井さん)

欧州で多発するテロや不安定な欧州各国の政局。さらにトランプ旋風、北朝鮮・イラン問題などの政治的な不安定要因が、金価格を支えているのだ。

検証1 悲観

金相場は利上げ予測に弱い!?→利上げ・株高で金価格は下げがセオリー

期トレンドで見れば、2015年12月のFRBによるリーマン・ショック後初の利上げを底に、上昇局面に乗っている金価格。しかし、短期的なレンジで見れば、やはり「利上げ」の予測時には下落する傾向にある。

左下の金価格のグラフを見ても、2015年12月にFRBが1回目の利上げをしたときに、金は大きく下げている。その後、相場は利上げを織り込んで上昇したが、2016年12月に1年ぶりに2回目の利上げをする直前は、やはり落ち込みを見せている。「利上げ」という行為が決定するという直前には、素直に相場が反応するというわけだ。

2017年は、FRBによる利上げが2回とも、3回とも、4回ともいわれている。利上げ回数が多いほど、金価格にとっては不安定。回数が少ないほど安定要因になる。

そのため、たとえば、5月18日にトランプ大統領とロシアの不透明な関係をめぐる疑惑、いわゆるロシアゲートが浮上すると、金は「有事の金」ということで上昇。しかし一方で、6月の利上げが確実という見方が広がると、あっという間に金価格は下落するといった不安定な動きになった。
「基本的に市場は年2回の利上げを見込んでいると思われますが、3回の利上げということになれば、金価格が一時的に大幅に下がる可能性もありえるわけです」(池水さん)

利上げが年3回実施されれば、金相場は1150ドル割れの展開がある、という予測も広まっている。

金価格にとっての悲観的なシナリオのひとつは、FRBが強気で米国景気の判断をし、年3~4回の利上げを決定したときだ。そのとき、金価格のボラティリティ(価格変動の度合い)は高くなるだろう。

検証2 楽観

利上げが続くと、金価格は暴騰!?→米国金利引き上げ時、途中から金価格が急速に上昇

「今は金価格にとってバブル前夜の時間帯」と指摘する田嶋智太郎さん。
「金は利上げ予測に弱いという特徴がありますが、つまり、景気がよくなって金利がどんどん上がっていくということは、バブルが膨らんでいるということ。そのうち、はじけて金利も下がることになるわけです。市場は先読みをするので、それを先読んでバブルの時期になると金価格が上がるのです」と解説する。

FRBがリーマン・ショック以前となる前回の金利引き上げを実施したのは、2004年6月だ。2003年にイラク戦争が終息したものの、米国株は一進一退を繰り返していたが、景気の底堅さから、ついに2004年6月にFF金利(*2)は、1%から1・25%に引き上げた。8月に1・5%へ、9月に1・75%へ、11月には2%と、立て続けの利上げとなった。

これに対し、米国の代表的な株価指標であるS&P500が上昇し始めたのは2004年11月の第4回引き上げ後からだ。そのころには、米国は不動産バブルが始まり、サブプライムローン(低所得者向け住宅ローン)の破綻に向けてのプロローグが進んでいた。

利上げは2004年6月から2006年6月まで17回に及んだが、金価格が前回の高値を抜いて上昇し始めたのは、2005年9月の11回目からだった。そのころすでに不動産バブルが絶頂期にあり、裏を返せば、金利はこれ以上上がらないという先読みの下、金が上がりだしたということもかもしれない。利上げが何回も繰り返されると、金価格が上昇することはぜひ覚えておきたい。

*2:FF 金利…フェデラル・ファンド(Federal Funds)レート。フェデラル・ファンドは、米国の銀行が連邦中央銀行に預けている準備預金を指す。FRS(連邦準備制度)の加盟銀行が、準備預金の過不足を調整するために無担保で相互に貸し借りをするときに適用される金利をいう。

検証3 中立

円建てはドル建てが上がっても反映されない!?→この先、「ドル建て金価格上昇」+「円安」のダブル高も

金価格は、基本的にドル建ての価格を見るのが市場のセオリー。しかし、日本で投資する以上は円建ての金価格も見ておく必要がある。

金価格は米ドルと逆相関の関係にある。というのは、米ドルが上昇するときには下落し、米ドルが下落するときには上昇する。さらに言うと、金の国際価格は基本的に米ドル建てのため、現地価格に対して下落した場合、現地の通貨ベースの金価格は為替の変動を受けて上昇するというわけだ。

つまり、円建てで見れば、円安/ドル高であれば円建て金価格は上がり、円高/ ドル安であれば、円建て金価格は下がるとなるわけだ。したがって、円建て金価格を見るときは、為替の動きと金価格の動きの両方を見る必要がある。また、「金の保有はドルに対する円の価値の下落に対するリスクヘッジとして有効」(田嶋さん)ということも覚えておきたい。

下の円建て金価格のチャートを見ると、円建て金価格はきれいな右肩上がりを描いている。

リーマン・ショック時にはすべての資産が大きく値下がりしたため、金価格もいったんは下がったが、すぐに値上がりしている。この時期ドル/円相場を見ると円高の時期で、ドル建て資産としての金は有利な投資先ではなかったのだが、金価格自体が値上がりしていたため、円高をしのいで上昇している。

その後、2013年をピークに円建て金価格は下げたのだが、今度は為替が円安に動いた。そのため、金価格の下落分を吸収したうえ、円安トレンドのため、円建て金価格はさらに上昇をしたのだ。

2016年に入って、為替面では若干の円高傾向にあるが、今度は金価格が上昇しているため、円建て金価格は下落せずに、4000円から5000円のレンジの中での動きとなっている。
「トランプ大統領はドル安を唱えてきたが、経済的にはこの主張を捨てる日が来るだろう。つまり円安の方向に流れが変わる日が来るということです。そうなると、金価格の上昇と円安のダブル高も見込めます」(田嶋さん)

円建て金価格の今後には期待できる兆しが見えているのだ。

検証4 楽観

「有事」になると金価格は上がる!? → 一時的には上がるが半値戻しで下降も

今年に入って「有事の金」が強く意識されたのは4月だ。3月にはFRBの利上げ観測から1196ドルまで値下がりしていた金価格が、4月初めに1270ドル台まで値を上げたのだ。その理由は、4月7日に米軍が突然、化学兵器を使ったとしてシリアに空爆を仕掛けたからだ。米国は複雑化しているシリア問題の対処に長年悩んでいたが、トランプ政権があっさり攻撃を決定したことで、地政学リスクに改めて焦点が当てられることとなった。

その後、同日の雇用統計の発表後に1250ドル台まで急落した金価格がまた1270ドルに戻したのは、4月11日だ。トランプ大統領のツイッターが発端だ。
「北朝鮮はトラブルを求めている。中国が助けに入ればよし。そうでなければ、彼ら抜きでわれわれは問題を解決する」と北朝鮮を真っ向から批判したのだ。

ミサイル実験を繰り返す北朝鮮情勢も、有事のリスクとして欧米マーケットを刺激した。改めて『有事の金』を証明した形だ。

その後も5月18日、トランプ大統領とロシアとの疑惑をめぐるロシアゲートでも、またもや金価格は急上昇した。コミー前FBI(連邦捜査局)長官に大統領補佐官とロシアの関係をめぐる捜査を打ち切るように求めたとの報道は、大統領の弾劾説まで浮上するほどの大きな政治リスクへと発展している。

米国の政治や中東情勢、北朝鮮問題など、振り返ればブレグジットを発端とする欧州政治問題も、フランスの大統領選挙こそ終わったものの、今後はドイツ、英国、さらにはイタリアとまだまだ火種がくすぶっている。リスクがあらわになるたびに、今後も金価格が急伸することは間違いない。しかし、こうした“イベント反応型”の上昇は、持続期間が比較的短期に終わるのも事実だ。
「われわれの間では、『有事の金』は売り、という言葉もあるほどです。急伸したところが売り場というわけです」(池水さん)

「『有事の金』後の急落で上昇した分から半値戻ししたところが絶好の買い場ともいわれています」(亀井さん)など、『有事の金』相場前後の値動きも冷静に読んで、売買に生かすことが大事なようだ。

金商品を購入するなら、どれ?

有事が頻発し、値動きが大きい金価格。いざというときに備えてある一定の割合で保有しておきたいものだが、どんな投資方法がいいのだろうか。

金ETFなら地金と違い、管理不用で配当も期待

多様化するリスクに対する備えとして金を買うことは、資産を守る投資となる。

実際に金に投資しようと思うと、最初に浮かぶのは金の現物に投資することだろう。しかし、金現物は100グラムで50万円近くもするので、あまり身近とはいえない。

その点、数千円から1万円程度で購入できて手軽なのが、投資信託や金ETF(上場投資信託)だろう。地金と違い管理の手間が不要なうえ、運用リスクがあるが、値上がり益のほか、配当も期待できる。

金は値動きが大きいこともあり、純金積立で時間を分散して購入するのもおすすめ。

また、1万円程度から始められる証拠金取引も、新しい選択肢となっている。

1 金ETF

ETFは証券取引所に上場され、株式と同じように売買できる投信。証券会社を通して、1口単位などを時価で売買することができる。

現在、上場している金価格に連動する金ETFは5銘柄。「唯一現物との交換が可能なのが『純金上場信託』(東証・1540)。取引価格も4400円前後と手ごろで、現物と交換できる安心感が魅力です」(田嶋さん)

また、『SPDR(スパイダー)ゴールド・シェア』(東証・1326)は、NYSEアーカー取引所にも上場されている世界ナンバーワン残高の金ETF。世界基準のETFを買うのも手だ。

2 投資信託

投信には金価格や金ETFなど金価格に準じた指数などに連動するもの、さらに金を産出する鉱山会社の株式に投資する金鉱株ファンドといった異色の投資対象もある。
「『三菱UFJ純金ファンド』は、金ETFの『純金上場信託』の取引価格に連動した投信です。投信なので積立もできます。SBI証券なら手数料ゼロで買えるのも魅力です」(田嶋さん)
「ブラックロック・ゴールド・ファンド」は、金産出国の金鉱株や金以外の貴金属・非鉄金属を扱う鉱業企業の株式にも投資。カブドットコム証券、SBI証券では手数料無料だ。

3 純金積立

月々1000円程度から一定額を毎月買い付けて金の積立ができるのが「純金積立」。
「純金積立なら、タイミングを気にせず、ドル・コスト平均法の効果で安いときにたくさん買い付けができる点が一番のおすすめポイント」(田嶋さん)

実際に現物を買い付けて保護預かりになっているので、万が一、購入先が破綻などしても、財産が保護される点も安心。購入した純金は100グラムなどで“現物”を引き出す楽しみもある。
「最近は金地金商以外に、ネット証券の一部でも、純金積立を取り扱うようになりました。新たに口座を開く必要はなく、今ある口座で挑戦することができます」(田嶋さん)

4 限日現金決済先物取引「東京ゴールドスポット100」

少ない資金ではなく大きな金額投資したい人向けの取引も登場している。「東京ゴールドスポット100(ゴールド100)」は、TOCOM(東京商品取引所)が、2015年5月に取引開始した商品。

取引が行なわれるTOCOMは、農林水産大臣と経済産業大臣の許可を受けた取引所で、投資家保護制度も完備されている。

金限日(げんにち)取引の残高は12万6000枚(枚は最低取引単位=100グラム)と、原油先物市場の約14万枚に次ぐTOCOM取引高第2位の市場取引規模となっている点も安心だ。

金の理論スポット価格を取引対象とする証拠金取引で、いわば、金取引のFX(外国為替証拠金取引)版といえる。従来の金先物取引に比べて取引単位1キロ)を100グラムに小口化し、取引に必要な証拠金も1万円弱と通常の先物取引の10分の1程度に抑えられている。

取引は、売りと買いのどちらからでも始められる。ポジションは自動的に翌営業日に持ち越される。通常の先物取引と違い、決済期限のない取引なので、期限にとらわれずに取引ができる。委託業者によっては、金地金との交換も可能だ。

取引時間は、土日・祝日を除く9時~15時15分、16時半~翌4時とほぼ24時間取引が可能。米国雇用統計の発表など海外イベントの時間帯も機動的に取引できるほか、ドルが下がったタイミングを狙うこともできる。

もちろん、レバレッジを使った取引で、価格の動きが小さくとも大きな利益を得ることができる。最低証拠金は約48倍、9000円から。5万円程度を預託するところから始めるのが一般的だろう。現在は1グラム=4500円くらいなので、1万円程度の資金で45万円ほどの金を売買でき、価格が上昇したときに得られる利益は相対的に大きくなる。
「今は値動きが大きいので、4200円で押し目買い、4500円で戻り売り、値幅300円を狙うなど、戦略を立てて売買するといいでしょう」(田嶋さん)

取引を始めるには、商品先物取引業者に口座を開設するか、楽天証券でも取引できる。業者によって、取引の手数料に多少差があるので事前に確認を。

また、税法上のメリットにも注目したい。税率は申告分離課税により一律20%となっている。