ネットマネー 2017年8月号より一部を特別公開!

運用型インターネット広告で急成長中

2009年に旗揚げしたネット広告のベンチャー、デジタルアイデンティティ。
「今さら起業しても遅いんじゃ…?」という周囲の声には耳を貸さずに、ひたすら費用対効果にこだわってきた同社の成長のスピードは、市場拡大のそれを大きく凌駕。
7月には持株会社に移行、社名を「Orchestra Holdings」に変更する。

取材・文●西川修一 撮影●石橋素幸

年10%成長する市場で、年30%超の売り上げ増を達成。
従来とはまったく異なるネット広告の手法とは?

費用対効果にこだわる広告の効率的な運用で顧客の継続率は約9割

「今、日本に約1000社あるといわれているインターネット広告代理店の中でも、われわれはかなりの後発です」

中村慶郎社長が謙虚にそう語るデジタルアイデンティティは2009年設立。現在、同社が展開中のビジネスは、インターネット広告を扱うデジタルマーケティング事業と、アプリを通じたサービスを提供するライフテクノロジー事業の2つである。

金融機関を経て英国に留学、大学院在籍時に起業を決意したという中村氏。MBA(経営学修士)を取得、帰国後は日本ロレアルでマーケティングのマネジャーを務めた。

広告費を支払う側だけに、その費用対効果には自然と敏感になったという。テレビCMや看板広告のそれが測りづらい半面、ネット広告は「すごく明確でお金が出しやすい。この先もっと広がるのでは」と、インターネット広告代理店として起業。
「インターネット広告の市場は前年比プラス10%、そのうちわれわれの得意とする運用型広告の市場は同20 %という勢いで年々拡大中ですが、われわれの2016年12月期の売上高は前期比36・4%増。市場を超えるこの成長率を、今後も継続できると思っています」

その自信の根拠を見てみよう。まず、売り上げの9割を占めるデジタルマーケティング事業。何が強みなのだろうか。
「われわれの一番の優位性は、広告費の費用対効果に徹底的にこだわり、効率的な運用を行なっている点だと思っています。ここを丁寧にやり続けた結果、広告費を増額していただいたり、ほかの部署をご紹介いただいたことが数字につながっています」

実際、昨年9月の新規上場時に同社が試算した顧客の継続率はなんと約9割。顧客が年に3割は離れるといわれるこの業界では異例の数字だ。それだけ顧客が満足を得られる手法とはどんなものなのか。
「伝統的なマーケティングの手法は、たとえばF1層(20~34歳の女性)とか、30代男性といった“属性"がベース。でも、自分や身近な人を比べればわかるように、同じ年代でもニーズは千差万別。われわれはこうした表向きのデータではなくて、実際にグーグルやヤフーなどで検索されているキーワードに関するデータに基づいて、仮想のターゲットをつくって運用します」

離職率が低く、過去数年間は新規営業も無し

顧客の1つの案件について、仮想ターゲットをいくつも想定し広告を運用する。たとえば、室内の掃除ロボットの広告を打つ場合、「掃除ロボットを(購入品として)想起している人・いない人」「行動意欲の高い人・低い人」で2×2=4通りの仮説を想定し、「ロボットを想起し、かつ行動意欲が高い人が最も購買に近い層。逆に行動意欲があっても想起していないのが最も遠い層。それぞれにどんな広告の施策が有効か、その広告の中でどう訴求すればいいかの仮説を組み立てます」。

購買に近い人は商品名を直接検索するから、それと絡めたリスティング広告(検索結果に連動して表示される広告)やSEO(検索エンジン最適化=ウェブサイトが検索結果の上位に表示されるように施す取り組み)が最適。たとえば、検索上位入りした顧客の自社サイトでは、「ここで買えば3年間無料で補償」などと詳細な条件を付ける。

「掃除ロボット購入から一番遠い人を、たとえば奥さんが妊娠・出産した人だとする。幼児のいる家庭は忙しいので掃除ロボットの所持率は高い。でも、妊娠した時点で掃除ロボット購入を考える人はほぼ皆無だ。しかし、この層は将来的に購入する可能性がある。ただ、『出産』という検索ワードと絡めて広告を実施しても無駄な広告費ばかりかかってしまい、実際の購買にはつながりにくいので、SNS(交流サイト)などで、『赤ちゃんが生まれると忙しい。夫婦の会話が減った』『でも、掃除ロボットを買って掃除を任せたら、夫婦で話す時間が増え、家庭も明るくなった』といった提案型・共感型の広告でいく……という具合です」

こうしていくつも立てた仮説に沿って、実際に広告を投入するわけだ。仮説Aは機能したからもっと投入する、仮説Cは機能しなかったからやめる、仮説Fは訴求力が足りなかったから訴求方法を別のものに替えてみる……等々、広告を投入した結果が明確に見えるのがインターネットの大きな特色。こうした結果を踏まえて施策を改善していく。これを繰り返すのだ。
「顧客の継続率が下がると、どんどん人を張って営業をし続けなければならない。でも継続率9割なら、営業より運用効果を上げるほうに経営資源を割けます。われわれは過去数年間、新規営業をしていませんでした。社員の離職率の高い業界にもかかわらず、過去数年で20人ほど入った新卒のうち、辞めたのはわずか数名です」

現在、同社のデジタルマーケティング事業はそうしたいいサイクルの中にあるようだ。
「市場の頭打ちはまだないと思います。IoT(モノのインターネット)が進むと、インターネットがパソコン、スマホ、タブレットから車や冷蔵庫といった幾多の機器に解き放たれます。すると、人が生活する時間の中でネットが占めるシェアがさらに増えますから、インターネット広告市場はもっともっと爆発的に成長する潜在力があると思っています」

チャットで占い師と直接やりとりする占いアプリ「ウラーラ」

では、もう一方の柱、ライフテクノロジー事業とは?
「テクノロジーとマーケティングを活用し、新しいプラットフォームをつくる事業。困ったユーザーがさまざまな専門家にすぐ相談できる『相談のプラットフォーム』を構築します」

今、注力しているのは2年前から始めた「ウラーラ」という占いのチャットアプリ。
「占いの市場規模は1兆円との説もあるほど。ネット上の市場だけでも相当の規模です」

占いのアプリといえば、姓名や生年月日を入力すると、占い師が執筆した原稿が出てくるコンテンツアプリが大半だが、同社の手がけるそれとは大きく異なるようだ。
「審査を通った300人超の占い師とチャットで直接相談するんです。コンテンツ提供ではなく、相談する場、つまり相談のプラットフォームを提供するものです」

利用価格は、個々の占い師が設定したチャット1文字ごとの単価から算出され、ウラーラだけで月収100万円超の人気占い師も。多いときは1人に万単位のユーザーの評価やレビューがつくので市場原理が働き、むやみに長く書き込んだり、法外な価格を設定する占い師は淘汰される。
「現在、チャット占いアプリの中ではナンバーワン。ライフサイエンスのカテゴリーでランキング1位になったこともあります。昨年までの2年間は投資の段階で赤字でしたが、今後は収穫期に入ると思っています」

今後は医者、弁護士などに“横展開"すべく画策中だ。
「高いスキルを持った自社開発チームとインターネット広告代理業で培ったデジタルマーケティングのノウハウがプラットフォームの成長を支えています」

2つの事業がしっかりとかみ合い、好循環になる。今後もトライし続ける同社の先行きを見届けたい。

COLUMN 新規開拓も順調高成長に期待

今年7月に持ち株会社化。M&Aなどで成長分野へ挑戦

データ解析と細分化された仮説検証を繰り返すことで広告効果を最大化する方針が受け、新規顧客開拓も順調。今後も高成長が期待できそう。占いアプリは電話相談の追加などの機能強化と広告宣伝によって利用者層の拡大を図り、このプラットフォームを活用したさまざまなサービス拡充も予定中だ。

今年7月には持ち株会社化へ。M&A(企業の合併・買収)などで新たなインターネットの潮流を捉えた成長分野へも積極的に挑戦する姿勢。デジタルマーケティングで着実に稼ぎ、新規ビジネスで急成長を狙う。
※本コラムは筆者個人の見解となります。