ネットマネー 2017年11月号より一部を特別公開!

外国人観光客の急増に伴う宿泊施設の需給逼迫や、シェアリングエコノミーの浸透などを背景に、住宅を宿泊場所として旅行者に提供する「民泊」 が注目を集めている。 今後、 賃貸物件の空室率解消の新たな手段としても活用できるのか。民泊を手がけている大家のケースを紹介する。

取材・文●日比忠岐(エディ・ワン)、山本信幸 撮影●関 大介、テラサカトモコ、岸本夏行、大倉琢夫

CASE1 所有物件でなくてもサブリースで高利回りを実現!

高校生のころから不動産投資の世界に興味を持っていた

都内を中心に多数の民泊を経営し、年間数千万円もの収益を上げている大神麗子さん。民泊経営を始めたのは2014年からだが、実は高校生のころから不動産投資に興味を持っていたという。

「きっかけは、勉強部屋代わりにシェアオフィスを借りたことです。そこは1つのフロアに100台ほどの机が置かれていたのですが、いつ行っても満席状態。ある日、興味本位で売上高をざっと計算してみたところ、その額の大きさに驚きましたね。1カ月の利用料は1万5000円でしたので、単純計算でも売り上げは1カ月で150万円以上。その当時は家賃やランニングコストにまでは頭が回りませんでしたが、単純に金額の大きさに魅せられ、これはいい商売だな、私もいつかやってみようと思ったものです」

大学卒業後は1部上場企業に就職。数年で退職した後、新たにビジネスを展開する中で民泊と出会ったという。

「ある程度お金が貯まったら、それを頭金に物件を購入し、レンタルオフィスかシェアハウスの経営をしようと思っていました。ところがある日、なんとなくウェブサイトを見ていたときに、民泊の存在を知ったんです。これなら、物件を自分で所有していなくても、サブリース(*)物件で営業できると思い、興味を持ちました」

外国でも知名度の高い新宿区を中心に多くの民泊を経営

さっそく物件探しに乗り出した大神さんが目をつけたのが、東京・新宿区落合の3階建てアパートだった。

「1階は店舗スペースでしたが、店子は入っていませんでした。オーナーさんに民泊として利用する許可もいただけたので、2階と3階の全3部屋を借りて民泊を始めることにしたんです」

敷金・礼金のほか、寝具などの設備投資を含めた初期投資額の約200万円は自己資金等で賄ったという。

設備を整え、民泊専門サイトに登録したところ、予約が次々に入って手応えを感じた大神さんは、勤務先を退職し、民泊専門の不動産投資家として活動していくことを決意。新たな投資物件の開拓にも積極的に乗り出していく。

「現在は都内で29室、大阪で3室の民泊を経営していますが、都内の物件は大半が新宿区内にあります。新宿周辺は移動が便利なので旅行者に好まれますし、新宿という地名は外国でもネームバリューが高いので、外国人旅行者を引きつける効果も期待できるんです」

実際、大神さんの民泊では、宿泊客の約6割が欧米を中心とした外国人観光客だ。外国人宿泊客を受け入れるうえで問題になるのがコミュニケーションだが、「実は外国語はサッパリなんです」と大神さん。そこで、英語が話せる常駐スタッフを2人雇い、顧客対応を任せているという。

「スタッフを雇うと当然、人件費がかかりますが、その分、自分に時間的余裕が生まれるというメリットもあるんです。私は、空いた時間はひたすら物件探しに費やしています。それくらい時間をかけて探さなければならないほど、民泊として使える物件の入手は難しいんです」

大神さんは自身で物件を所有せず、サブリースでの民泊経営を信条としているが、物件を借りる際、オーナーに拒否されるケースが非常に多いことが悩ましいと打ち明ける。

「所有物件で民泊を運営されることを嫌うオーナーさんは多いですが、私は民泊用の物件を借りる際、オーナーさんに目的を必ず伝えるようにしています。十中八九は断られるんですが、それでも、内緒で借りて、あとでトラブルになるリスクを考えれば、最初に包み隠さず話しておくべきだという考えです。リスク回避という意味では、民泊開設時に旅館業の免許を取得しておくことがベストですね」

*サブリース...土地・建物・付帯施設などの物件を一括賃借し、入居者などの第三者に転貸しすること。

CASE2 大阪の国家戦略特区を活用して、民泊運営業で大きく収益を上げる!

民泊利用者の大半はアジア系で全体の8割。中韓旅行者に人気がある

新山彰二さんの「民泊」施設は大阪府内にある。昨年は10室を民泊に充てて概算で売上高2000万円、利益1000万円を得た。利用者の国籍は8割がアジア、1〜2割が欧米で、日本人は1割にも満たない。アジアの中でも中国と韓国がツートップだという。4・7・8月が繁忙期、2・9月が閑散期になる。

新山さんの出発点はサラリーマン大家さんだ。転勤先の大阪にマンションの一室を購入。表面利回り9%という好条件だったが、ローンや管理費等を差し引くと月2万円ほどしか残らない。1棟保有も検討したが、それよりも低い投資金額で利益が得られる輸入衣料品のネット販売に進出。軌道に乗った2014年6月、退職して会社を設立した。

新山さんのネット販売仲間の中には、国内の商品を海外の顧客に販売している人もいた。「その人から『Airbnb(*)』を教えてもらいました」。国内の商品を海外の顧客に売ることと、国内の部屋を海外の旅行者に貸すことに大差はなく、早い段階からAirbnbを利用して、住宅に旅行者を有料で泊める民泊で利益を上げていたのだ。

大阪は特区民泊に前向きだが、同業者が多数参入している

マンションの空室などに宿泊者を泊めるためには旅館業法に基づく簡易宿所としての許可か特区民泊(国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業)の特定認定が必要で、特区民泊が認められるエリアは限られる。新山さんの物件がある大阪は前向きだ。大阪市は認定209施設400室が稼働、182施設468室が申請中(8月22日現在)という。

新山さんは「大阪は特区民泊を活用しますが、ほかの地域は簡易宿所として運営するつもりです。そのため今は物件の入れ替えを行なっているところです。大阪には1万件以上のAirbnbへの登録がありますが、許可を得て営業している物件は少ないので、これから参入するチャンスはあると思います」と語る。

2018年1月から民泊のルールを定めた民泊新法(住宅宿泊事業法)が施行予定だが、新山さんは年間180日という営業日数上限を不安視する。上限は各自治体が条例により引き下げることが可能だが、フル稼働できないことに変わりはない。仲間とは「空白期間はマンスリーで貸し出す、時間貸しの会議室にするといった案を出し合っていますが、根本解決にはならないでしょうね」。当面、大阪は特区民泊、それ以外は簡易宿所で対応する予定だ。

*Airbnb(エアビーアンドビー)...宿泊施設・民宿を貸し出す人向けのウェブサイト。2008年に米国で公開され、手数料収入で急成長した。ネット上で、貸したい部屋や建物と借りたい旅行者を引き合わせてくれる。住民と交流ができて、地元の雰囲気を楽しめるのが魅力。2017年9月1日現在、世界191カ国、6万5000都市以上で事業を展開し、利用者数は延べ2億人に上る。

CASE3 外国人を積極的に受け入れ、収益価値を大幅アップに導く!

仕事のスキルを生かしたマーケティング調査で京都に着目する

仕事のスキルを生かしたマーケティング調査で京都に着目する

2013年から民泊への投資を開始した桑江英将さんだが、そのきっかけは海外の民泊ポータルサイトを偶然、目にしたことだった。

「学生時代に建築を専攻し、卒業後は建設会社を経て広告代理店でマーケティングに携わっていたんですが、民泊経営なら大学で学んだ知識と仕事で身につけたスキルを両方生かせると思ったんです」

勤務先が従業員の副業に理解のある社風であったことから、上司の許可も得て民泊経営のための会社を設立。ターゲットを外国人観光客と定めたうえで、東京や名古屋、大阪などの主要都市でテストマーケティングを実施した結果、京都で物件を探すことに。

「京都の魅力は、宿泊客となる外国人観光客が多いのはもちろん、ターミナル駅の徒歩10分圏内に住宅が多いことです。しかも、都内と比べて競合が少ない割に決して資金が潤沢とはいえない私のような個人投資家でも、手が出せる価格の物件がかなりあるのもありがたいですね」

いくつかの物件を比較検討した結果、京都駅前徒歩5分の平屋の一戸建て物件を購入することに。民泊営業のための改修費や、簡易宿所としての許可を得るための経費などを合わせた約300万円は、自身の貯金と金融機関からの事業融資で賄ったという。

「当時は今ほど民泊が多くなかったこともあり、民泊ポータルサイトに登録した直後から、予約や問い合わせがどんどん舞い込み、うれしい悲鳴を上げたものです」

少人数でも多人数でも、対応可能な一戸建て物件にこだわりを持っている

桑江さんはその後も着々と物件を増やしていき、現在では京都に4軒、大阪に2軒、東京に2軒と計8軒の民泊のハウスを所有している。

「すべて簡易宿所許可取得での一戸建てで、大きいものでは20人収容も可能です。お金がかかっても少人数でゆったりと宿泊したい人もいれば、多人数で安く泊まりたい人もいます。広めの戸建ては、どちらにも対応できるのがメリットです」

戦略的な投資が功を奏し、桑江さんの民泊事業は順調に成長。繁忙期には1件当たり月150万円もの収益を上げられるようになったこともあり、桑江さんは今年5月に勤務先を退職。今後は民泊経営と並行して、海外でゲストハウスをプロデュースする事業も展開していく予定だという。