孫正義さんが後継者を早くも指名したことについて

ソフトバンクの孫さんが、自身の後継者として、インド生まれで米国の実業家、グーグルの元シニアバイスプレジデント兼チーフビジネスオフィサーを務めたこともあるニケシュ・アローラ氏を指名したことについて考えてみよう。

イメージ撮影●村越将浩

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今年の5月、孫正義さんが自身の後継者候補を指名したことについて、さまざまな報道がなされました。その中には、孫さんの周りにかつての私や笠井和彦氏のようなナンバー2がおらず再考を進言する人がいないという幹部の方の発言や、頻繁に関心が変わる孫さんは、自身が熱中した領域に詳しい人材を外部から招いてはその人に入れ込む癖があるという旨の報道もありました。

今回の孫さんの後継者候補の指名を受けて、ある新聞記者からコメントを求められました。私は孫さんから、このニケシュ・アローラ氏が優秀であると聞いてはいましたが、実際のところ私自身よく知らない話ですからコメントはできないと返信し、そのうえで「また変わるかもね」と付け加えました。というのは、何も孫さんが変わるということではなく、米国社会で生きてきた47歳の「後継者」のほうが変わるかもしれないというニュアンスを込めての言葉です。

そもそも人を選ぶということは大変難しい作業であって、そう簡単に短期間で結論が出る話ではないように思います。人を選ぶ際は、会社の将来を見据え、時代の潮流の中でどのような人物がこれから必要とされるのかということがひとつあります。また、「創業と守成いずれが難きや」という言葉もありますが、会社が成長期にあるのか成熟期にあるのかなど、その会社の発展段階に応じてそれぞれ誰が適材かを選ぶということがもうひとつあります。この言葉は、唐の太宗の政治に関する言行を記録した『貞 観政要』に記されています。

私は、創業には創業の難しさがありますし、守成には守成の難しさがあると思います。わかりやすい例として徳川家康を見れば、いわゆる「関ヶ原の戦い」までの家来たちと、それ以後「徳川三百年」の礎をつくっていく家来たちとでは、当然、能力・手腕の違う人間であるべきでどちらも難しい時期であることに変わりはないのです。

これをソフトバンクに照らして言えば、いまだに営業利益の8割を国内の通信事業で稼ぐ現状や、米国の携帯4位のTモバイルUSの買収断念、あるいは3割強を出資する中国のアリババ集団の新規株式公開で手にした巨額な含み益等々より、まずはこの収益源、アセットの現況を踏まえて将来を考える必要があります。

そしてまたこれから後、どういう分野で収益貢献が上がって行くのかどういう新たな収益分野を開拓しようとしているのかそのための人材がどれだけマッチしているかといったことが非常に大事になるのです。

また、私どもSBIグループに照らして言えば、後継者は金融サービス事業、アセットマネジメント事業、バイオ関連事業という当社の柱となる3事業すべてにつき、経営できるレベルで知っているということがマストです。このうち、金融サービス事業およびアセットマネジメント事業の分野については、基本的に私があまり言うことなしに、きちっと前に進んでいける体制がすでに築かれて、任せていられる状況です。前者に関してはもはや放って置いても伸びていくと思っていますし、後者に関してはインターネットやバイオ、環境・代替エネルギーなどの今後の成長分野に投資することを前提として、後は目利きがあれば、その領域の中でよい会社を探せるだろうと思っています。そういう意味で今、私 が最も力を入れているのは3事業の残りの1つ、バイオ関連事業であって、これをいかに早く収益化するかに絞ってさまざまな取り組みを加速化しています。私自身、徐々に成果を出し始めているこの事業を、自らの最後の集大成として捉え、日々一生懸命に取り組んでいます。孫さんの場合、後継者が自社の事業へ精通していることの重要性について、どういうふうに考えているのかが、大事なポイントになるでしょう。

ニケシュ・アローラ氏は金融、通信キャリア、インターネットと3つの分野にまたがってそのキャリアを築いてきた、叩き上げの方のようですから、そうした分野がわかっていればそれでよいということかもしれません。あるいは、いまだに日本国内依存型のソフトバンクという会社の経営者として、この日本社会の中にどれだけ深く彼が浸透でき、リーダーとして皆を引っ張っていきうるかという部分もあるでしょう。ただし、これに関して孫さんは「まだまだ引退するつもりはない」とされているようで、すぐにその座を明け渡すわけではなく、当面両方でやっていくというのであれば何ら問題ない部分ともいえるのかもしれません。

今回の孫さんの決定を受け、私的には「あまりにも早い後継者指名だなぁ」と意外に思いました。それは孫さんがまだ若く、少なくともあと数年は十分やれるという状況で、かつまだ米国の事業の今後が不安定だと思える状況では、少し早いのではと思ったからです。また、SBIグループで取締役執行役員副社長を務め享年57歳で昨年4月16日に逝去した井土太良君のように、突如としてそのナンバー2を失ってしまうケースもありうるわけで、47歳のニケシュ・アローラ氏が絶体に大丈夫とはいえないでしょう から、あまり早く指名しすぎるのもどうかという気もいたしました。要は、権限を委譲するべきタイミングで会社の他の役職員等もそれが当然かつ自然だと思う後継者を指名するのがよいような気がします。

北尾吉孝
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北尾吉孝
きたお・よしたか●1951年、兵庫県生まれ。
74年、慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。
78年、英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。野村證券で事業法人三部長等を経たのち、95年にソフトバンク入社、常務取締役。
99年、ソフトバンク・ファイナンス社長。
現在、インターネット総合金融グループを形成する
SBIホールディングスの代表取締役執行役員社長。
『何のために働くのか』(致知出版社)など著書多数。「facebook」にてブログを執筆中。