今後の為替相場の見通しと日本経済への影響について

個人投資家は2015年の為替相場について昨年と変わらないドル高(円安)状況を想定しているようだが、日本経済にとって円安がよいか、円高がよいかは、その時々の状況で変化していくものだ。

イメージ撮影●村越将浩

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SBI証券が個人投資家を対象に実施したアンケートで「ドル円レートの高値(円安方向)/安値(円高 方向)について教えてください」という問いに対して、回答いただいた為替レートの数値を平均すると、最高値の予想は1ドル=127円44銭、最安値の予想は1ドル=110円20銭となりました。個人投資家は、2015年のドル円相場も昨年と大きく変わらないと考えているようです。私自身は2007年6月につけたドルの高値、124円14銭がひとつの節目になるのではと見ています。

仮にそれを抜いてくるとなれば、今度は120円台というよりも、むしろ130円くらいまで一気に上がっ ていく可能性もありうる気がします。ただし、以下の観点により、当面は当該高値を抜いてこないのではないかと思っています。

3回の量的緩和の金融政策を受けて米国経済は堅調に推移し、ついに政策金利の引き上げが議論されるまで正常化されてきましたが、利上げの時期に関しては識者の見方も割れています。私は、おそらく7?9月期が利上げの時期として有力ではないかと見ており、その上げ幅はわずかなものだと予想しています。なぜそう考えるかというと、原油価格が下落しているうえにドルが非常に強いという状況の下では、輸入品が安くなりなかなか物価が上がってこないからです。

つまり、FRB(連邦準備制度理事会)議長のイエレン氏は、インフレの心配などする必要なく、むしろ ディスインフレ(物価上昇が小幅にとどまり、いつデフレに陥るかわからない状況)を気にしなければならないのでは、と思うのです。したがって米国の政策金利はこれから後、原油価格あるいは為替水準の行方次第で、大した上げ幅にしかならないか、ひょっとしたら当面上げないかもしれないというシチュエーションに十分なりうるのではないかと考えています。そのため、先ほど述べた為替レートについても高値を抜いてくる展開に当面ならないのではと思っています。

「そもそも日本の経済にとってよいのは円安か円高か」ということにも多種多様な見方があり、その時々の状況で変わってきます。米国の政策金利の引き上げはもちろんのこと、日米に次いで先日放たれた「ECB(欧州中央銀行)のバズーカ砲」や、昨年11月からすでにスタートしている中国人民銀行の金融緩和、昨年6月以降大きく下落した原油価格なども影響してきます。こうしたさまざまな要因が統合的にいかなる形で影響してくるかで為替水準が具体的に決まってくると考えています。

たとえばエネルギーの96%を輸入している日本経済にとって、原油暴落は朗報となるはずです。年初にまとめられた世界銀行の報告書によれば、原油が10%値下がりすると輸入国の経済成長率は0・1~0・5ポイント上昇すると試算されています。しかし、一方でここ2年間での約37%のドル高(円安)進行により、その下落がもたらす果実を十分に享受できないという部分も出てきます。

また、「1ドル=100円程度が持続可能な水準」と主張する専門家もいるように、購買力平価から見たドル円レートは現在、長期的な趨勢からカイ離した円安局面にあります。そのおかげもあり、昨年、日 本を訪れた外国人旅行者数は前年比29・4%増の約1341万人、訪日客が旅行中の買い物などで使ったお金が推計で43・3%増の約2兆円と、日本の内需を刺激するのに役立っている部分があるでしょう。

以上、具体例を挙げながら述べてきました。つまり「円高がよい」とか「円安がよい」とはそう簡単に言い切れないのが現況であり、そのよしあしの議論は他の状況を不変とするなら短期間では成立しうるとしても、他の状況が時々刻々変化していく過程では何をもって適正とするかは難しいのです。

ところで最近の為替相場において、対ユーロで設けていたスイスフランの上限撤廃に伴う急騰がありました。私どものグループ会社SBIリクイディティ・マーケットでは、その影響は何らありませんでしたが、国内外の複数のFX業者が損失を出したり、欧州諸国でいえば、ポーランドやギリシャの銀行への悪影響も報じられています。

スイスフランという、ある面では大変重要な国際通貨に対するスタンスをスイス中央銀行が急きょ変更した結果、世界全体にいかなるネガティブインパクトを及ぼしたかを政策当局はしっかり分析して総括しなければなりません。私自身も撤廃した意図はもちろん理解できますし、一面で合理性があるような部分も事実ではありますが、各国の政策当局としてはグローバルに多大な影響を与えることを考慮に入れつつ政策を決めるべきだったと思います。

昨年10月末の「黒田バズーカ第2弾」にしてもそうですが、突如として予想外の動きに出ることは世界中に大混乱を巻き起こし、中央銀行としての信頼を失う結果にもなりかねないのではないかと危惧しています。

北尾吉孝
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北尾吉孝
きたお・よしたか●1951年、兵庫県生まれ。
74年、慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。
78年、英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。野村證券で事業法人三部長等を経たのち、95年にソフトバンク入社、常務取締役。
99年、ソフトバンク・ファイナンス社長。
現在、インターネット総合金融グループを形成する
SBIホールディングスの代表取締役執行役員社長。
『何のために働くのか』(致知出版社)など著書多数。「facebook」にてブログを執筆中。