原油を減産しないサウジアラビアの真意

減産に踏み切らない理由について識者によるさまざまな見方が報道されているが、事情をつぶさに見ていくと、結局は市場メカニズムに委ねるのが最良と考えているのではないだろうか。

イメージ撮影●村越将浩

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私が毎月欠かさず読んでいる米国の論文誌の中で、シェール資源の輸出が経済にどれだけのインパクトを与えるか検証している特集を見かけました。その中の論文のひとつに、昨年6月19日に1バレル=115ドルだったブレント原油価格は9月8日までに1バレル=100ドルへと段階的に値を下げた後、10月中旬までには1バレル=84ドルへと急落しましたが、ディーラーたちはOPEC(石油輸出国機構)最大の産油国であるサウジアラビアがそのうち市場の安定を保つため減産に踏み切ると考え、1バレル=90ドルが底値と想定していた旨が書かれています。

しかし10月20日には、サウジアラビアとクウェートが「価格下落が早急な原油減産を正当化する理由にはならない」と主張し、それが価格下落を容認していると市場で認識されて下落圧力が強まったわけです。その後はご承知の通り11月に開催されたOPECの第166回定例総会で日量3000万バレルまでという現行の生産枠が据え置かれ、価格下落が急激に加速し、1月末現在、51ドル近辺で推移しています。

この減産しないサウジアラビアの真意に関して、各種新聞記事でも第2次石油危機後の1985年に原油 価格が急落した際、価格の維持を意図してサウジアラビアが減産を一手に引き受けた結果、市場シェアを大きく失うことになったという痛恨の記憶が指摘されていましたが、特に最近は識者によるその他のさまざまな見方が報道されています。

それらの中には、①「米国、サウジアラビアが、原油に依存している対ロシア、対イラン経済を追い詰めるため」や、②「米国のシェールオイルの開発を抑制させたいサウジアラビアの思惑」を挙げる向きもあります。①についてはイランは国庫収入の6割、ロシアは5割前後を原油収入に依存しているとされています。

とある商品アナリストがOPECによる最新予想を根拠として指摘するように、2015年の世界の石油需要は前年比+113万バレルの日量9226万バレルが見込まれています。また、OPEC非加盟国の産油量は前年比+136万バレルの日量5731万バレルと予想されており、2014年と同様、OPEC非加盟国の増産量が世界の石油需要の増大量を上回る見通しだとのことです。これは、2015年もOPECが減産しなければ、原油の需給は一段と緩和する可能性が高いことを意味し、仮に現時点でOPECが減産対応に踏み切ったとしても追加減産を迫られるのは時間の問題です。

そして、おそらくOPEC最大の脅威である前出②のシェール革命の世界的進展という観点から述べるなら、たとえば米国におけるシェールオイルは2014年、前年比で日量100万バレル増え450万バレル に達する見込みなのに対し、全世界の原油需要は今年68万バレルしか増えない見通しですから、今の状況はシェールオイルだけで世界の需要増をすべて賄いきれ、お釣りまでくるような状況です。

冒頭の米国の論文誌には、ロシアを抜いて世界最大の天然ガス生産国の地位を手に入れた米国 が、次は世界最大の原油生産国になるとも記されており、シェール部門の生産効率は加速度的に上 昇していて、今や年間約25%のペースで効率が高まっているといわれるような現況です。

過去に私は、公害をまき散らす化石燃料のオイルは最終的に石炭と同じ運命をたどるのではと述べ、クリーンエネルギーがより大事になってくるかもと指摘しましたが、3・11後、あっという間にずいぶんと利用されるようになった日本のみならず、世界でも今後はさらにクリーンエネルギーということが盛んに言われるようになっていくのだと思います。

昨年12月にはソフトバンクがインドで1000万キロワット級の太陽光発電設備への出資に関心を示して いるというニュースがありました。ソフトバンクの孫さんはいわゆる「アジアスーパーグリッド構想」、つまりアジア各国を送電線で結び、風力や太陽光など再生可能エネルギーで発電した電力 を各国間でやりとりする構想を打ち立てています。

OPEC加盟各国の原油生産コストは1バレル当たり10ドル台から20ドル台といわれ、シェールオイルの 限界的な生産コストは1バレル当たり50ドルから70ドル程度といわれますが、クリーンエネルギーの相対的コストが十分に見合うようになれば、それもOPECにとっての脅威になっていくのだろうと思います。

サウジアラビアが2015年予算で原油価格80ドルを想定としているとの報道もありましたが、いずれに せよ前出の①のイランやロシアに経済的な打撃を与えるためという見方は少しうがちすぎだと思われ、②のOPECにとっての脅威ということで考えるなら、短期的な価格コントロールを目的としてOPECもうかつに減産することはできないでしょうし、結局、市場メカニズムに委ねるのが最良だと考えているということなのではないでしょうか。

北尾吉孝
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北尾吉孝
きたお・よしたか●1951年、兵庫県生まれ。
74年、慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。
78年、英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。野村證券で事業法人三部長等を経たのち、95年にソフトバンク入社、常務取締役。
99年、ソフトバンク・ファイナンス社長。
現在、インターネット総合金融グループを形成する
SBIホールディングスの代表取締役執行役員社長。
『何のために働くのか』(致知出版社)など著書多数。「facebook」にてブログを執筆中。