ソニーの凋落で見えてきた日本の産業構造の危機と将来

ソニーの凋落は、日本の産業構造が〝ものづくり?に必ずしもそぐわなくなり始めているという事実を物語っている。革新を次から次へと起こせずに今後も掛け声倒れに終始するのであれば、日本の将来は暗いものになる…

イメージ撮影●村越将浩人物撮影●永井浩

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ソニーが今期の業績予想を2300億円の最終赤字に下方修正し、上場以来初となる無配を決定したとい うニュースが大きな話題となりましたが、ソニーの凋落はソニーに限った問題ではなく、日本の産業構造がものづくりに必ずしもそぐわなくなり始めているという厳然たる事実を物語っているのだろうと思います。

Latecomer’sAdvantage(後発部隊は、いいとこ取りできる)という経済用語もありますが、これを言い換えれば中国を中心とした低賃金でものづくりを行なう国々が出現して、さらに先進諸国の最先端の技術的成果をいとも簡単に手に入れたということです。

このことをもう少し考えてみると、たとえば鉄鋼分野においてはブリティッシュスチールからUSスチール、そして新日本製鐵へと覇権が移行したという歴史があるように、国際競争力というのは経済的コストもすべて含めて、そのときそのときの企業を取り巻く環境によって決まってくるものだということです。ソニーの置かれた状況に関しても、ある意味では仕方がないことかもしれません。

とはいうものの、仕方がないからどうしようもないという姿勢ではなく、ソニーや日本の家電産業の衰勢をもって今後日本における産業構造はかくあるべきだということが、今まさに考えられなければならず、そして技術革新が次々となされていかなければ激変する環境の中できわめて多様化した消費者ニーズには応えていけません。

ものづくりで一度その主役の座を明け渡してしまえば、新たに主役となった生産国に消費者ニーズやニーズに関する情報が集まり、研究開発がその地でどんどん進められていくことになります。ぐずぐずしていたら日本は置いてけぼりにならざるをえません。日本の置かれた状況はすでにきわめて深刻であると認識すべきで、この現況は新たに革新的なものを創出することでしか食い止められないわけですが、では何ゆえ日本でイノベーションが起こっていかないかといえば、イノベーションを起こす風土が現在十分に備わっていないからでしょう。

米国を見ると、国籍に関係なく優秀な人であればどんどんチャレンジさせて、起業するのであればそういう人が起業した会社に国や地方公共団体の助成金のみならず、エンジェルやベンチャーキャピタルも含めてきちんと資金を提供していくという風土が備わっています。また、シリコンバレーを見ればわかるように、産業界と大学が非常に親密なリレーションシップを作りながら最先端の研究シーズ(技術、人材、設備など)を大学から次々に引き出して利用し、テクノロジー企業が非常にうまくイノベーションを行なっています。結果として、優秀な人々がどんどんベンチャー企業へ集まっていきます。

このような産学協同、税制改革、公的資金、高い労働力のモビリティー(流動性)等を通じた新産業育成メカニズムの具現化、あるいは古臭い文法・表現を教えるばかりの時代錯誤の英語教育や創造性・革新性に満ちた子供達を育てえない学校教育全般の根本的転換といった、非常に広範かつ長期にわたって、しかもすぐ結論の出ないような事柄に取り組んでいかねばならず、いったん問題化してしまった場 合、そこから抜け出すのはなかなか容易ではありません。いま日本が抱える大問題を認識したところで、急変革を実現してすぐに新しい世界に挑戦できるという類いの話では決してないのです。

ものづくりの第一線から日本が脱落していく中で、自動車産業はまだ何とか食い下がっている状況ではあるものの、日本勢はハイブリッド車から完全にシフトできないうちに電気自動車で後れを取りつつあるといった部分もあります。昭和50年代、60年代には、当時の通産省がうまく機能したことで現在の日本の自動車産業が世界的地位を得ているという側面はあるでしょう。しかし、いま国を挙げて電気自動車の事業化に邁進するような国が出てくることになれば、電気自動車の生態系ができあがっていない日本勢はその波に乗っていけないのではないでしょうか。

バイオテクノロジー分野のiPS細胞(新型万能細胞)で世界を凌駕しているのであれば、この産業の裾野をいかにして広げていくかに関して政府が中心となって指針を示すことも必要でしょうし、取り組んでいる民間企業を応援する仕組みも早急に構築されねばなりません。また、日本における発送電システムの抜本的変革も、あの3・11以後なかなか前進せず、時間だけが過ぎている状況ですが、これをストレートに決めてしまえば設備投資が躊躇なく実施されるようになっていくでしょう。そして、日本の電力における近代化をもたらすべく、IT技術を使って電力を効率的に供給する次世代送電網「スマートグリッド」の世界を一挙に作り上げていくべきでしょう。

革新というものを次から次へと起こせずに今後も掛け声倒れに終始するのであれば、日本の将来は暗いものになると言わざるをえません。

北尾吉孝
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北尾吉孝
きたお・よしたか●1951年、兵庫県生まれ。
74年、慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。
78年、英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。野村證券で事業法人三部長等を経たのち、95年にソフトバンク入社、常務取締役。
99年、ソフトバンク・ファイナンス社長。
現在、インターネット総合金融グループを形成する
SBIホールディングスの代表取締役執行役員社長。
『何のために働くのか』(致知出版社)など著書多数。「facebook」にてブログを執筆中。